「お客さんに原料を仕入れてもらった」
――「マスクのほね」づくりで、金型製作の技術を生かした点はどこでしょう。
武林さん「フックのすきまのところに薄い鉄を残すのが、とても難しいです。薄いほねでしっかりホールドするには、その隙間をゼロに近づける必要がある。フレームは金型に樹脂を流して作りますが、金型の鉄に何百トンという圧力がかかります。それでも曲がらないのが、うちの金型の技術です」
――「マスクのほね」の製作を経て、会社として学んだことはありますか。
武林さん「歯ブラシの金型を50年近くやってきて、こんなに受注が落ち込んだことはなかったです。その中で、金型技術を使って作った商品が、こんなに喜んでもらえたことにいろいろな学びがあったと思います。金属とプラスチックでバラバラなことをやっているように見えますけど、根底にあるのは金型の技術。コロナ禍であっても今まで築き上げてきた技術は不変で、どんな状況であっても変わらないと思います」
――自社の金型技術を再認識したということですね。
武林さん「うちだけの力ではないと思っています。注文が予想以上に入ってきた時に、本来はお客さんである成形メーカーに助けてもらいました。原料が手に入らなかった時に、何とか仕入れてくださって。お客さんに助けていただけるイメージがあまりなかったので、とてもうれしかったです。自分たちがやってきたことが間違っていなかったと思えました」
――今後もBtoC商品をつくる予定はありますか。
武林さん「明確には決まっていませんが、金型の受注は浮き沈みがあるので、それを安定させるために自社発として発信することは大事だと思います。今回を経験したことを金型づくりに反映することで、助けていただいたお客さんに返せたらと思っています」
(会社ウォッチ編集部 笹木萌)