三菱の岩崎弥太郎との対立
巻末には、守屋さんによる「渋沢栄一小伝」があり、渋沢の人生をコンパクトに紹介している。尊王攘夷の志士として活躍した時期、一橋家の家来となった時期、幕臣としてフランスに渡った時期、明治政府の官僚となった時期、実業人となった時期と異なる5つのステージがあった。
三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎との「屋形船会合事件」にも触れている。弥太郎から「強者連合」を組まないか、と誘われたが、「独占事業は欲に目がくらんだ利己主義だ」と批判し、断った。
「もし栄一が欲得に目がくらみ、岩崎弥太郎と結託する選択をしていたなら、後の日本の資本主義は、おそらく今とは形の違うものになっていた可能性が高い。栄一の揺るがぬ信念があったからこそ、現代のわれわれはその果実の恩恵に浴し、世界有数の経済大国の地位を享受している面があるわけだ」
と守屋さんは書いている。
簡単に言えば、倫理を持った資本主義という渋沢の考えが、グローバル資本主義の行き過ぎた現在、人々の共感を集めているということだろう。(渡辺淳悦)
「現代語訳 論語と算盤」
渋沢栄一著、守屋淳訳
筑摩書房
902円(税込)