茶の「生産」日本一の座をめぐる争いが激化している。
日本最大の茶所と言われてきた静岡県が2019年の茶の産出額で初めて鹿児島県に抜かれたのだ。生産量ではかろうじて静岡県が日本一を守っているが、両県の差は年々縮まっており、今後の順位争いは一段と熱を帯びそうだ。
首位陥落! 静岡県の歴史的な敗北
農林水産省が2021年3月に発表した農業産出額の統計によると、19年の茶の産出額は静岡県が251億円だったのに対し、鹿児島県は252億円と、クビ差で「奪首」を果たした。鹿児島は前年比13.1%減だったものの、静岡が18.5%減と大きく落ち込んだため、逆転した。統計が残る1967年以降、静岡の首位陥落は初めてといい、まさに歴史的な敗北となった。
他方、農水省が産出額とは別に発表している荒茶(茶畑で摘んだ茶葉を乾物状態まで加工したもの)の生産量では、静岡が首位をキープしている。19年は静岡2万9500トン、鹿児島2万8000トン、20年も静岡2万5200トン、鹿児島2万3900トンだった。
ただ、かつては静岡が鹿児島を数万トン上回っていたことを考えると、20年はわずか1300トンまで差を縮めた鹿児島県の追い込みの激しさが目立つ結果になった。
静岡が苦戦している大きな理由は、茶畑の環境や高齢化などによる担い手不足とされる。静岡の茶畑は山間地が多く、急斜面などもあって機械を導入できない立地が少なくない。このため、より多くの人手が必要になる。しかし若い担い手は少なく、高齢者だけで細々と続けたり、後継者不足から栽培の継続を断念したりする農家も多いという。
これに対し、鹿児島では広大で平らな土地が多く、機械化に適している。実際、経営規模の拡大が年々進んでおり、農水省によれば、2015年時点で農家1戸あたりの栽培面積は静岡の1.3ヘクタールに対し、鹿児島は3倍以上の4.3ヘクタールにのぼる。鹿児島の規模は茶の主要生産県の中でも飛び抜けて大きく、効率的といえる。
鹿児島「茶」支えるペットボトル需要
一方で、茶の飲み方は近年、急速に変化している。「若い世代を中心に、お茶は急須で入れるのではなく、ペットボトルで飲むものだという人が増えている」(流通関係者)という状況だ。こうしたなか、ペットボトル飲料を製造するメーカーにとっては、安定した品質の茶葉を大量に仕入れることが重要となっており、鹿児島産を大量購入するメーカーが増加。こうした環境の変化が鹿児島の茶栽培を盛り立てているといえる。
さらに、鹿児島は茶のブランドを「知覧茶」として統一する取り組みも進めている。古くから引き継がれてきた伝統のブランドが多数存在する静岡県と異なり、「鹿児島のお茶はわかりやすい」といった好意的な消費者も少なくない。鹿児島の躍進の裏には、地道に積み重ねてきた努力もあるというわけで、「21年にはいよいよ生産量でも鹿児島がトップを奪うのではないか」との見方も強まっている。
それぞれの地元紙は、首位逆転のニュースを大きく報じている。
静岡新聞(静岡市)は「茶産出額1位陥落 史上初、鹿児島県に譲る」(電子版は2021年3月13日配信)
との記事で、「解説」を載せ、「業界と産地の垣根を超えて一丸となって静岡茶ブランドの再興に向け改革を進めることが急務だ」と指摘。首位陥落で危機感をあらわにしているのは当然といえるだろう。
一方、南日本新聞(鹿児島市)は諸手を挙げて大喜びかと思いきや、そうでもない。「鹿児島の茶産出額・日本一でも喜べない 家庭の緑茶購入量、50年で半減 消費拡大へ機能性を科学的に証明」との記事(電子版は2021年4月7日配信)で、鹿児島県も生産量が伸びているわけではないことを指摘。全国茶生産団体連合会が総務省の家計調査を基に1人当たりの緑茶購入量(ペットボトル入り飲料を除く)を算出したところ、19年は266グラムと、1970年の527グラムから半世紀にわたる長期低落で半減したとして、機能性を重視した需要喚起の必要を訴えている。(ジャーナリスト 済田経夫)