「もう2、3回東京五輪中止を進言してきた」
新型コロナウイルスの政府分科会の尾身茂会長が言い切った。この進言が効いているのか、さすがの菅義偉首相も最近、弱気になってきたという。
一方、暴走と暴言が止まらず、日本国民の神経を逆なでしているのが国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長だ。いまや、バッハ会長の存在そのものが五輪開催にリスク要因になってきた。
バッハ会長はノーベル平和賞を狙っているともいわれるが、もし東京五輪が利用されているとしたら? あり得ないと思いたいが......。
尾身茂会長「個人的に2、3回中止を進言した」
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「東京五輪中止」に言及したのは、2021年4月28日の衆院厚生労働委員会だった。主要メディアの報道をまとめると、東京五輪・パラリンピック開催の是非について立憲民主党の長妻昭氏の質問に対して、こう答えたのだった。
「重要なことは感染の状況、医療のひっ迫状況。そうしたことを踏まえて東京オリンピック・パラリンピックに関する議論を、もうそろそろしっかりとするべき時期にきている」
長妻昭氏が、「開催途中に感染爆発が起きても、政治的配慮で緊急事態宣言を出さないようなことがないか心配しているが、どう考えるか」 と聞くと、
「そのときになって判断するのでは遅い。組織委員会など関係者がいろんなことを今から考えて、感染レベルや医療のひっ迫がどうかを考慮し、議論をしっかりやるべきだし、やろうと思ったらできる。(水際対策についても)変異株の国内外の状況を見ると今より、もう少し強めにしたほうがよい。緊急事態宣言を出している中で、入国制限などで入国者数をもう少し減らせないかと思う」
と、さらなる強い対策の必要性を強調した。
さらに長妻氏が、「(東京五輪開催の是非について)政府から分科会に意見を求められたか」と聞くと、
「個人的に、私には2、3度あり、つい最近もあった。世界では発展途上国も含めて感染が非常に広がっているのは事実。リスクは当然ある。感染の状況、医療のひっ迫状況を考えた上で、国民に知らせるのが組織委員会、関係者の責任でないかと申し上げた」
と事実上、中止すべきだと進言したことを明らかにした。
菅首相「IOCが開催を決めたから」の一点張り
ところが、この声は表向きは菅義偉首相に、響いていないように見える。菅首相は同日、報道各社に書面で「IOCが(開催を)決定したから東京五輪を開く」という決まり文句の回答を寄こした。これは、4月23日の記者会見で指名されなかった新聞社の記者たちに書面で答えたものだった。
東京新聞(4月29日付)「『五輪開催の基準は?』書面でも答えず 本紙の再質問に菅首相」が、首相の誠意ゼロの姿勢をこう伝える。
「政府は4月28日、菅義偉首相の23日の記者会見で指名されなかった報道機関が提出した質問に書面で回答した。本紙は会見で指名され、新型コロナの感染が拡大する中で東京五輪を開催する判断基準について質問したが、首相は明確に答えなかった。そのため本紙は書面で再質問したが、回答はなかった。 首相会見は『1社1問』に限られ、答えが不十分な場合でも追加質問を認めていない。京都新聞は書面の質問で『会見は一人1問で、不明な点を再質問できないため、会見を見ている国民はすっきりしない』と指摘。会見での本紙の質問を受ける形で、開催可否の基準を聞いた。首相は『IOC(国際オリンピック委員会)は今年7月から開催することを既に決定している』と、会見と同様の主張を繰り返した」
つまり、新型コロナの感染が拡大する中で東京五輪を開催する判断基準は何かという、いま最も国民が知りたいことを聞いた東京新聞には答えなかった。それは首相会見の「1社1問」というルールに反するからだった。しかし、京都新聞が東京新聞をフォローする形で同じ質問を書面ですると、回答を寄こした。だが、相変わらず「IOCが決めたから」という小学生のような答えに終始したのだった。
橋本聖子・組織委会長も尾身茂氏の発言をスルーした。スポーツニッポン(4月28日付)「橋本聖子会長『安全安心最優先の大会をどのように目指すか』尾身氏の発言も意に介さず」が、木で鼻をくくったような態度をこう伝える。
「橋本聖子会長と武藤敏郎事務総長が5月28日、IOC、IPC(国際パラリンピック委員会)、政府、東京都の各代表者による5者協議を終えて会見を行った。尾身茂会長の発言について問われた橋本会長は、『本日の5者協議でも開催することは合意した。尾身会長の発言も承知しているが、専門家の知見も踏まえながら安心・安全な大会を開く会議を精力的に行っている』と話した」