永守氏の実権は変わらない
一見、長年の懸案だった後継者問題が決着したかのようではあるが、最大の株主でもあり、取締役会議長でもある永守氏は「会社の新たな事業展開など、本来の経営トップとしての仕事に私の重点を持って行く」と記者会見で語っている。
いくらCEOといっても入社して1年余りの関氏に創業者の永守氏を差し置いて重要事項を決める力があるとは考えにくい。
後継者探しはこれまでも行われたが、2020年4月の関氏の社長就任に伴い、やはり永守氏が引き上げてきた当時の吉本浩之(よしもと・ひろゆき)社長(53)や片山幹雄(かたやま・みきお)副会長(63)が事実上の「後継者失格」の烙印を押され、そろって副社長に降格した。
吉本氏は旧日商岩井が振り出しで自動車部品の旧カルソニックカンセイや日産自動車を経て2015年に日本電産入りし、18年6月に「初の社長交代」で社長兼COOに昇格、片山氏はシャープの元社長で14年に日本電産入りしていた。吉本氏の社長就任を機に「集団指導体制」を導入したが、2年足らずで投げ出した形で、永守氏は昨年2月の記者会見で「創業以来最大の間違い」と述べた。「間違い」の反省を生かして永守、関両氏の「二人三脚」を強化するのが今回のCEO交代であって、永守氏が実権を握ること自体に変化はないだろう。
一方、日本電産を取り巻く経営環境をみると、足元では半導体不足という「逆風」が吹いているが、自動車の電動化が不可逆的に進む中で中長期的な成長力への市場の期待は高い。
野村証券は4月22日付のリポートで「永守会長は長期経営戦略の立案と、それに沿うM&A(企業の合併・買収)などにより多くの時間を割くとみられる」と評価し、「新しいマネジメント体制でのM&A戦略に期待」を示している。
その半面、「永守氏頼みの経営こそリスク」というのが市場の見方だ。永守氏は、この8月で77歳を迎えるが、真の意味で関氏が後継者となりうるのか、見極めるには、もう少し時間が必要なようだ。(ジャーナリスト 済田経夫)