社風が180度変わった
――ところで、朝日新聞出版は、朝日新聞から独立しましたが、何か変化はありましたか。
青木さん「7年ぶりに新聞から出版に戻ったんですが、180度変わったと言ってもいいでしょう。社風が変わりました。他の出版社から新しい人を採用し、その分新聞社からの出向者が減り、血中ビジネス濃度が変わりました。以前は採算を度外視しても『いい本』を出そうという会社でしたが、今はベストセラーを出そう、みんなで稼ごうというマインドがあふれています」
――単に売れればいいということでは、問題もあるのではないでしょうか。
青木さん「2012年、橋下徹・大阪市長(当時)の人権にかかわる差別的な記事を『週刊朝日』が掲載し、その責任を取り、当時の社長が辞任。その後に私が着任しました。反省を踏まえ、『何のために本を作るのか?』ということを社員に問い直しました。いまのコロナ禍もそうですが、人々が不安な時こそ、正しい情報と心の豊かさが求められているのではないか。我々は言論機関であり、文化産業なんだと。社内でスローガンを募集しました。そこで採用されたのが、名刺にも刷っていますが、『すべての人に、価値ある一冊を』というものです」
――経営者として影響を受けた本は何でしょうか?
青木さん「マキャベリの『君主論』かな。リーダーは『愛されようと思うな。しかし、憎まれてはいけない』とか、『忍耐強い聞き手であれ』『決めたらぶれるな』などの言葉を噛みしめています」
――ところで、本はいつ読まれているんですか? 出版社の社長だから、今は会社の机上で堂々と読んでも問題はないでしょう(笑)。
青木さん「いやいや、会社にいる時はやることが山のようにありますよ。とても本は読めません。もっぱら、通勤途中の電車の中で30分くらい。あとは家で深夜読みます。ほとんどが自社の本ですが。自分の愉しみのための読書はできませんね」
――御社の最近のトピックスは何でしょうか。
青木さん「『ゲッターズ飯田の五星三心占い』です。2020年度、弊社でいちばん売れたシリーズです。現在、166万5000部。前年までセブン&アイホールディングス傘下のセブン&アイ出版が出していましたが、同社の会社清算により、大手数社と争奪戦の末、弊社が獲得しました。JRの女性専用車両を占有しての宣伝などの効果もあり、前年の2倍近い売り上げになりました。ゲッターズさんの占い本は読むと『竜馬がゆく』と同様、元気が出ますよ」
現在ヒット中の「ゲッターズ飯田の五星三心占い 2021年」は、人によって本が異なる。青木さんは、記者の生年月日を聞くと、いったん社長室に戻り、「それならこれです」と記者が該当する本を持ってきた。
読んで、蒼ざめた。基本的な性格から、昨年以来の仕事運、金運などが恐ろしいほど当たっている。運気が良くない年だが、どうすればいいのか、読む人を励ますような筆致で書かれているのが、読者の心をつかんでいる秘訣だと思った。(渡辺淳悦)
プロフィール
青木 康晋(あおき・やすゆき)
朝日新聞出版代表取締役社長
1959年愛知県生まれ。81年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。岐阜、伊勢(三重県)、名古屋本社社会部勤務のあと、東京本社政治部で竹下登首相番記者、自民党担当キャップなど。2004年週刊朝日編集長、06年土曜版「be」編集長、08年オピニオン面編集長。11年の東日本大震災のとき、仙台総局長(東北取材センター長)。北海道支社長を経て、12年12月より現職。
現在、日本出版クラブ理事、日本雑誌協会監事、司馬遼太郎記念財団理事。