小売り各社の決算が続々とまとまっているなか、コロナ禍の「巣ごもりの需要」や訪日外国人客(インバウンド)の消失などで業態の中で明暗が分かれ、格差が広がっている。
コロナ禍が業績を左右。まず、「巣ごもり需要」を取り込めたかで明暗を分けた。
好調スーパー VS コンビニ不振
スーパーでは、イオンの2021年2月期決算が、売上高こそ前年並みの8兆6039億円だったが、営業利益は前期比30.1%減の1505億円。衣料品など食品以外も扱う主力の総合スーパーが外出自粛で苦戦したほか、昨春の緊急事態宣言時にイオンモール(専門店街)が全館休業し、テナント賃料の減免を余儀なくされるなどで1000億円超の特別損失を計上した結果、純損益は710億円の赤字(前期は268億円の黒字)となった。
ただ、食品スーパー事業やドラッグストア事業は好調で、22年2月期の見通しも、コロナ禍前の20年2月期並みの200億~300億円の純利益を見込み、落ち込みは一時的との強気の見方を示す。
セブン&アイホールディングス(HD)のスーパーも、総合スーパーのイトーヨーカ堂は営業時間の短縮やテナント部分の休業などが響いて既存店売上高が前期を下回ったが、食品スーパーのヨークベニマルは、巣ごもり需要により売り上げを伸ばし、営業利益は165億円(同26.3%増)となった。
食品中心のスーパー「ライフ」を展開するライフコーポレーションも、売上高が前期比6.2%増の7591億円、純利益が2.2倍の178億円と、ともに過去最高を更新した。
スーパーと比べて、元気がないのがコンビニだ。大手3社の21年2月期の売上高は、セブン&アイHD傘下のセブン-イレブン・ジャパンが前期比4.2%減の8502億円、ローソンが8.8%減の6660億円、ファミリーマートが8.5%減の4733億円。ファミマは164億円の純損失を計上し、2016年にユニーグループHDと経営統合して以降で初の赤字に転落した。ローソンも純利益は前期の半分以下の86億円にとどまった。セブンの純利益は14.6%増の1944億円だったが、配当収入が伸びたためで、本業のもうけである営業利益は2333億円と前期から8.1%減った。
各チェーンとも、住宅街の店は巣ごもり需要で好調だったが、オフィス街や観光地の店が苦戦したのは同じだが、プライベートブランド(PB)比率が、ローソンとファミマの約4割に対し、セブンは約6割と高いことも奏功し、相対的にセブンの傷が浅かった。
ブランド衣料が不振、ユニクロは中国で稼ぐ
家具や日用品も巣ごもりの恩恵を受けた。ニトリHDは売上高と純利益が過去最高を更新した。在宅勤務関連の商品が好調だったといい、ネット通販にも力を入れ、その売り上げは前期から6割も伸びた。22年2月期も増収増益を見込む。
ドラッグストア業界では、「スギ薬局」を展開するスギHDの2021年2月期決算が、売上高は前期比11.2%増の6025億円、純利益は1.6%増の211億円と、いずれも過去最高を更新した。他の大手も軒並み好調で、マスク使用、在宅勤務で化粧品の需要が落ち込み、訪日客の消滅もあったが、マスクや消毒用アルコールといった感染予防関連の商品などが伸び、食品や日用品も売れた。
衣料品はカジュアル品とブランド品で明暗が分かれた。
ユニクロは21年8月期の業績予想を4月に入って上方修正し、売上高に当たる売上収益は前期比10%増の2兆2100億円、営業利益は同71%増の2550億円と、従来予想からそれぞれ100億円積み増した。国内や中国の好調が北米や欧州の落ち込みをカバーしている。
しまむら、西松屋チェーンも、21年2月期の売上高はそれぞれ4.0%増の5426億円、11.5%増の1594億円、純利益もそれぞれ99.3%増の261億円、668.0%増の82億円だった。
これら低価格の日用衣料品各社が巣ごもり需要をつかんで強みを見せたのに対し、ブランド服を百貨店やショッピングモールで展開する各社は軒並み苦戦。オンワードHDは売上高が29.8%減の1743億円、純損益は231億円の赤字に転落。三陽商会も純損益が49億円の赤字(前期は14か月の変則決算で26億円の赤字)と5期連続で赤字を計上し、浮上のきっかけがつかめないままだ。
百貨店、コロナ禍前に戻る時期は2023年までかかる
百貨店もダメージが大きかった。高島屋の21年2月期連結決算は、売上高に当たる営業収益が前期比25.9%減の6808億円、最終(当期)損益は339億円の赤字(前期は160億円の黒字)と、2004年2月期以来17年ぶりに最終赤字に転落した。
J・フロントの同期の連結最終損益も261億円の赤字(前期は212億円の黒字)と、2007年にJ・フロントリテイリングとなってから初めての通期赤字。セブン&アイHD傘下のそごう・西武は本業のもうけを示す営業損益が66億円の赤字に転落した。
また、最大手の三越伊勢丹HDは21年3月期の見通しを、売上高8000億円(前期比28.5%減)、営業損益が330億円の赤字(前期は156億円の黒字)、最終(当期)損益は450億円の赤字(前期は111億円の赤字)としている。
いずれにせよ、「コロナ流行前の状況に戻る時期は2023年くらいまでかかるのではないか」(高島屋の村田善郎社長)というように、簡単に回復は期待できない。
小売業界の先行きは、緊急事態宣言の再発動などコロナ禍の影響がまだ続きそうで、厳しい環境のなか、消費者のニーズをつかんだ業態、個別各社と、そうでない業態、各社の差が一段と拡大しそうだ。(ジャーナリスト 岸井雄作)