東芝の混迷が終わらない。アクティビスト(物言う株主)との対立激化、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズの2兆円規模の買収提案から、車谷暢昭(くるまたに・のぶあき)社長兼最高経営責任者(CEO)の辞任、CVCの買収実質断念と、事態はめまぐるしく動いた。
名門企業・東芝はどこへ向かって行くのか。
社長には前任の綱川会長が復帰
J-CASTニュース、会社ウォッチでも、東芝のゴタゴタは何度も報じてきた。
「選任賛成率、異例の『57.96%』 物言う株主に悩まされる東芝・車谷社長のかじ取り」(2020年8月25日付)
で、旧村上ファンドの流れをくむ「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」(シンガポール)など、物言う株主との攻防を伝え、この総会の議決権の扱いをめぐる対立を、「東芝経営陣の正念場 『物言う株主』が揺さぶる『不利益な議決権行使』の実態解明のゆくえ」(2021年3月27日付)
で詳報。さらに、4月13日付で
「東芝2兆円買収 CVCキャピタルの提案は『混迷』から脱出するチャンスなのか?」で、CVCキャピタル・パートナーズによる買収提案を伝えたばかりだ。
そして事態は14日に急転。車谷社長兼CEOが辞任し、後任に前社長の綱川智会長が復帰する人事を決めた。
これを発表した記者会見には綱川氏と社外取締役として指名委員会委員長を務める永山治・取締役会議長(中外製薬名誉会長)が出席。欠席した車谷氏の「今年1月に東芝再生のミッションがすべて完了し、達成感を感じている」などとしたコメントが出されたが、社内の混乱を収拾するため、辞任に追い込まれたのが実態だ。
大まかな流れをおさらいしておこう。
2015年以降、不正会計や米原発子会社での巨額損失が相次いで発覚し、経営危機に陥った東芝は、2期連続の債務超過による上場廃止を避けるために2017年に約6000億円の増資を実施。その際、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントなどの物言う株主が多くを引き受け、今も東芝株式の2割超を保有しているとされる。
株主還元を含む経営方針をめぐり、物言う株主との対立が激しくなり、20年7月の株主総会では、車谷氏の再任への賛成比率は約57%台まで低下。この総会の議決権の扱いなどについて、2社の物言う株主からの請求で2021年3月に臨時株主総会が開かれ、外部弁護士による調査を求める株主提案が賛成多数で可決された。
そこに降ってわいたのがCVCによる買収提案だった。株式上場を廃止し、経営判断のスピードアップを図るというもので、要は物言う株主に口を挟まれないようにするということだ。
このCVCは、元三井住友銀行副頭取の車谷氏が、東芝に転じる直前の18年3月までCVC日本法人の会長を務めていたという関係になり、買収提案の発覚時から、車谷氏が自己保身のためにCVCを呼び込んだとの疑念が出されていた。
ただ、それにしても車谷氏の辞任は急転直下の印象だ。
過度な数字重視に高まる車谷氏への「不信任」
じつは、もっと早い段階から辞任へ向けた動きがあった。3月の臨時株主総会に前後して、指名委員会が車谷氏に対し、夏の定時株主総会で再任しない考えを伝えたという。物言う株主との緊張関係に加え、2021年に入って幹部社員を対象に実施した年1回の社内調査で、車谷氏への「不信任」が50%を超えたことも理由とされる。
銀行出身の車谷氏は数字での管理を重視し、利益目標の達成を強く求めたといい、これがかつて不正会計を生んだ数値第一の「チャレンジ」の復活との反発もあったという。
社内外から不信を突きつけられた形で、車谷氏も辞任を受け入れた。
指名委員会は4月7日に委員会を開いて車谷氏の退任を決める予定だった。その前日、6日にCVCの買収提案が飛び込んできた。車谷氏が提案に関わっていたのかは不明だが、1株5000円程度でTOB(株式公開買い付け)を行い、非上場化するという内容で、現経営体制の維持も盛り込まれていた。車谷氏は辞意を撤回し、7日の指名委員会は延期された。
CVCの提案が表面化した7日に車谷氏が「取締役会で検討する」と報道陣に語ったのに対し、2日後に永山氏は取締役会議長として、CVCの提案は「初期的かつ法的拘束力のない提案書」と疑問視する異例のコメントを公表した。車谷氏へのけん制だったとみられる。
結局、最後は永山氏、車谷氏、綱川氏が話し合い、車谷氏は退任を受け入れ、14日の取締役会で交代人事を決めたという。
CVCからは買収について19日に「検討中断」の連絡が東芝に届いたという。事実上の買収断念とも言われる。このほか、CVCの動きに触発されてか、米投資会社コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)やカナダのブルックフィールドなども買収を検討していると報じられている。提案があれば、株主の利益に直結するだけに、真摯に検討する義務があるが、車谷氏なき東芝経営陣は、この1月に東証1部に復帰を果たしたばかりでもあり、買収・非上場化には懐疑的な声が強いとされる。
買収がひとまず遠のいたとみられることで、焦点は物言う株主との攻防に戻る。これについて、車谷氏が物言う株主から不信を買っていたのは確かで、2020年7月の定時株主総会の取締役選任議案で、57%台という車谷氏の支持は、綱川氏らの9割程度と大きな差があった。
とはいえ、車谷氏の辞任の前後で、会社と株主の基本的な構図に大きな変化があるわけではない。
車谷体制では、中長期的な視点での投資を計画したが、短期的な株主還元を重視する外国ファンドなどから批判があった。一方、株主の期待に応えるべく業績改善に傾注し、実際に2021年3月期の営業利益は1100億円(前期比15.7%減)の見込みと、コロナ禍の中では健闘したが、社内では過度の利益重視、数字重視との批判が出たのは、前記のとおりだ。
「目指すべき方向性を経営陣と従業員で共有し、グループの成長を確かなものにしていく」。綱川氏は社長交代の会見でそう述べたが、株主の期待に応えつつ、社内の求心力も高めるのは簡単な道ではない。(ジャーナリスト 済田経夫)