「人生100年時代」を迎え、ついに定年が70歳になった。
今年(2021年)4月1日から「70歳就業法」とも呼ばれる改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業に対して働くことを希望する人には、就業の機会を与えることが努力目標になったのだ。
「そんな歳まで働きたくないよ。悠々自適の生活を送りたい」
と思っているアナタ、その考えは少数派ですよ。
じつはかなり多くのシニアが元気なうちはいつまでも働き続けたいと思っているのだ。そんなシニアたちの声を聞くと――。
60歳代の8割は「70歳くらいまで働きたい」
いま働いているシニア層は、いったい何歳まで働きたいと思っているのだろうか。
就職・転職・人材紹介を支援するマイナビが2020年7月にミドルシニア&シニア層の就労者希望調査を発表した。40歳代から70歳代までの男女約1800人が対象だ。
それによると、「70歳まで働きたい」と答えた人は25.1%、「70歳を超えても働きたい」と答えた人が23.4%もいた。40歳代以上の年代に限ると、半数近くの人がずうっと働き続けたいと考えているのだ。
40歳代~60歳代の人が働き続けたい理由のトップには「生活費」をあげたが、60代では2位に「健康維持のため」という目的が浮上。そして、70代では「健康維持のため」がトップになり、3位に「時間を有効に使いたい」、4位に「人との交流・出会いが欲しい」、5位に「充実感ややりがいを得るため」が入ってきた=図表1参照。おカネよりも、もっと人生を充実させるものが大事になってくるのだ。
60歳代だけにしぼると、「働き続けたい」という人の割合がぐんと多くなる。昨年、内閣府が発表した「高齢社会白書 (2019年度版)」によると、60歳以上で仕事をしている人に「何歳ごろまで働きたいか」を聞くと、「働けるうちはいつまでも」が36.7%と最も多く、次いで「70歳くらいまで」が23.4%、「75歳くらいまで」が19.3%となった。
「働けるうち」も含めると「70歳くらいまで」が全体の8割近くに達したのだ。
少子高齢化で労働力不足に悩む現在、これだけ働きたい高齢世代が増えているのを放っておく手はない。実際、65歳以上の働く高齢者は昨年906万人に達しており、働く人全体に占める割合は過去最高の13.6%にのぼっているのだ。つまり働く人の7人に1人は65歳以上というわけだ。
というわけで、2021年4月1日から「70歳就業法」とも言われる改正高年齢者雇用安定法が施行された。これまで希望する人全員を65歳まで雇用することが企業に義務づけられていたが、70歳までに引き上げることを企業の努力義務とするというもの。具体的には、
(1)定年の廃止
(2)70歳までの定年延長
(3)再雇用制度の導入
(4)起業する人やフリーランスとして働く人と業務委託契約を結ぶ
(5)NPOなどの社会貢献事業に従事できるようにする
といった5つの働き方から、企業と従業員(労働組合など)が話し合って決めるとしている。
まだ、「努力義務」の段階だが、いずれ「65歳まで雇用」のように義務付けられる流れになりそうだ。
半数近くの企業が「70歳定年」の準備不足
しかし、準備が進まない企業が多いのが実情だ。厚生労働省の調査によると、66歳以上でも継続して働ける企業は昨年6月1日時点で3社に1社にとどまる。
帝国データバンクが2021年3月15日発表した「70歳就業法」に関する企業の意識調査(調査対象:全国2万3702社)によると、「対応を考えていない」と回答した企業が32.4%、「分からない」として対応を決めかねている企業が14.9%と、半数近くが何の手も打っていないことがわかった=図表2参照。
各企業からはこんな回答があった。
「技術の伝承という観点から継続雇用をしている」(ニット・レース染色整理、福井県)
「働けるうちは何歳でも雇用していくというモットーにより70 歳以上の社員も元気に働いている」(石油卸売、兵庫県)
などと前向きに高年齢者を雇用している企業もあれば、高齢者の雇用継続に否定的な企業も多かった。
「マッチングが非常に難しく断念している」(ソフト受託開発、富山県)
「ドライバーという職種柄、安全の根幹である認知、判断、動作の基本操作への影響が表れる可能性があり、慎重にならざるを得ない」(一般貨物自動車運送、群馬県)
「高齢者にとって体力的に厳しい業種なので希望者が少ない」(各種食料品小売、岐阜県)
また、一般論として、
「業種、業態もさまざまであり、一括りに 70 歳までの就業機会を確保するのは厳しいのでは」(和洋紙卸売、茨城県)
といった意見も多数みられた。
(福田和郎)