「数百年に1度の非常事態が起こっているのに!」
変異ウイルスが爆発的に猛威を振るっている大阪府の吉村洋文知事は2021年4月20日、3度目の緊急事態宣言の発出を政府に要請した。同じく変異ウイルスが急拡大している東京都と兵庫県も宣言を要請する構えだ。
いったい、なぜ「第4波」を止められなかったのか。
政府分科会の尾身茂会長は、
「政治家はリスクと責任を負うべきだ。国民は非常時の政治リーダーの言動を見ている」
と憤る。
政治リーダーたちのふるまいを、主要メディアの報道から探ると――。
医療専門家「大阪は宣言を出してももう遅い」
大阪府の吉村洋文知事は4月20日、政府に緊急事態宣言の発出を要請したが、医療専門家の間では「もう手遅れだ」という声が上がっている。
テレビ朝日(4月18日付)「専門家『大阪は〈今すぐ〉緊急事態宣言でも...遅い』」が、こう伝える。
「4月18日、日曜日なのに過去最多の1220人の新たな感染が確認された大阪。まん延防止措置適用から2週間が経つが、果たして感染拡大を抑え込めるのか。感染症学が専門の松本哲哉主任教授(国際医療福祉大学)に聞く」
として、松本哲哉教授の話をこう紹介した。
「今回の変異株『N501Y』は非常に感染力が強く、肺に入ると健康な若者でも炎症を起こして重症化します。それが80%以上、従来株に置き換わっている。大阪の医療現場のひっ迫状態を見ていると、本日(4月18日)のタイミングですぐに緊急事態宣言を発令してももう遅い。これまでのような単なる宣言ではダメ。それ以上の抑制策を施さないと手遅れになります。飲食店だけでなく、あらゆる多業種に休業を要請し、学校も休校する必要があります」
司会者に、「番組の調査では東京都も50%以上、『N501Y』に置き換わっていますが、どうしたらよいでしょうか」と聞かれると、松本教授はこう答えたのだった。
「東京都も封じ込めるのは難しいでしょう。都もできるだけ早く緊急事態宣言を出し、今から企業や学校に準備させておく必要があります」
それにしても、大阪府はなぜ「もう遅い」と言われる状態になるまで手をこまねいていたのか。吉村知事が2度目の緊急事態宣言の解除を急ぎ過ぎたことに加え、3度目の宣言要請の判断が遅れるという二重のミスを犯したたことを各メディアが指摘する。
朝日新聞(4月20日付)「解除50日、3度目宣言へ 医療危機、経済配慮の知事が一転」がこう伝える。
「吉村知事は2度目の緊急事態宣言の解除には前のめりだった。解除を要請する方針を決めた2月中旬の大阪府の対策本部会議。専門家は解除に理解を示す意見を寄せつつ、変異株の影響や3~4月の歓送迎会の増加による感染拡大に留意するよう念を押した。これに対し、吉村氏は会議後、『宣言が1日延びるだけで商売されている方には死活問題。宣言を解除するべきだ』と語ったが、専門家の懸念は現実となった」
「(重症病床が100%を超えるほど)ひっ迫する事態となった。それでも吉村氏は『(解除要請の)判断自体は間違っていたとは思っていない』と主張した。まん延防止等重点措置をめぐっても、専門家は『営業時間短縮を続けても効果は限定的』と指摘していたが、吉村氏は『飲食店の場が感染の中心なのは間違いない』とし、時短要請を柱とする対策の効果を見極めることにこだわった」
専門家の意見に耳を貸さなかったわけだ。こうした吉村氏について、大阪府幹部は、こう評価したという。
「吉村知事は、政治家は臨機応変であるべきだと思っているようだが、軸がない」
訪米の菅首相に忖度して後手に回った吉村知事
毎日新聞(4月20日付)「まん延防止効果薄く 大阪・緊急事態宣言要請へ」も、こう指摘する。
「もともとまん延防止措置については懐疑的な見方があった。休業要請ができない点で宣言と異なる。ある府幹部は『まん延防止適用の効果を見極めようとしている間に感染が一気に広がってしまった』と指摘。歓送迎会シーズンに感染が急拡大。府庁内では、早期の宣言発令を求める声が高まっていたが、吉村知事は『まん延防止の効果が表れ始める4月19日の感染状況次第だ』と繰り返していた」
というありさまで、呑気にかまえていたわけだ。
大阪府の検査では82.8%を「N501Y」の変異がある英国株が占めているから、極めて危険な状態だった。国際医療福祉大学の和田耕治教授(公衆衛生学)は、毎日新聞の取材に、
「(変異株の)データを示しながら強く府民に要請することで、まん延防止措置でも緊急事態宣言並みの対策はとれたはずだが、大阪府はそれをしなかった」
と、対応の弱さを問題視した。
結局、吉村知事は4月18日、日曜日なのに過去最多の驚くべき感染者数が出て、緊急事態宣言の要請に舵を切ったわけだが、バイデン米大統領との首脳会談(4月17日)に臨む菅義偉首相に「忖度」したから遅れたと指摘するのは週刊AERAのオンライン版(4月19日付)「菅首相の訪米で吉村大阪府知事が『忖度』 緊急事態宣言遅れ、医療崩壊を招く」である。こう報じる。
「大阪府では4月18日(日)、新たに1220人の感染者が確認され、過去最多を更新した。政府関係者がこう話す。『今回の菅首相の訪米でコロナ対策へ弊害が出ています。本来なら大阪はもっと早く緊急事態宣言を決断、再発出すべきでした。しかし、菅首相と仲がいい吉村洋文知事は訪米直前での要請は迷惑がかかると忖度し、判断を鈍らせました。後手に回ったように見えぬよう、吉村知事は菅首相が帰国した後、緊急事態要請を行い、菅首相は直ちに判断を行うというシナリオを描いています。しかし、大阪府民からしたら、1日の遅れも事態を深刻化させるわけだから、何をやっているんだという話です』」
というのだ。
尾身茂氏「政治家はリスクと責任を負うべし」
一方、政府側も行き当たりばったりの対策しか考えていないようだ。朝日新聞(4月20日付)「解除50日、3度目宣言へ 止まらぬ人流、追加対策どう」が、こう指摘する。
「前回の緊急事態宣言が全面解除された3月22日。その時点でリバウンドの兆候が見えていた。政権幹部はまん延防止等重点措置でリバウンドを止めたい考えだったが、当初から効果を不安視する声もあった」
それは各種データから、大阪駅や東京などの人出が減らないどころか、逆に増える傾向がみられたからだ。朝日新聞がこう続ける。
「政府が3度目の緊急事態宣言を出す場合に焦点となるのが、どのような業種に休業要請をかけるかだ。大阪府はテーマパークや大型商業施設など幅広い対象を検討。政府も遊技場などを想定。東京都も要請する構えなので、経済への影響を懸念する声が根強い。官邸幹部は『さらなる対策は絶対に経済を傷つける』と頭を抱える。自民党幹部は『休業は大阪だけでやってほしい』。別の党幹部は『一番いいのは学校を休校にすることだ。子どもが自宅にいれば、親もいないといけない。人流を半減できる』と主張する」
と、あれやこれや述べるだけで、明確な根拠に基づいて対策を考えているわけでない。
こんな政治家たちの無責任ぶりに憤りを見せたのが、政府の対策分科会の尾身茂会長だった。朝日新聞(4月20日付)「尾身茂氏インタビュー 大阪支援『オールジャパンで』」の取材に応じて、こう語ったのだ。
「今回のリバウンドは、やはり変異株の問題がある。特に大阪などのスピード感は、変異株が1つ大きな要因だったと思う。東京でも何もしなければ変異株が大阪のようになるのは時間の問題。ここまでくると、感染者が急に減ることはないだろう」
そして、尾身氏は政策を決める政治家のリーダーシップについて、こう糾弾した。
「今は、何百年かに1度の非常事態。まさに社会の危機。選挙で選ばれたリーダーたちは、今まで以上の説明と実行力が求められている。人々はリーダーを見ている。リーダーはリスクと責任をとる必要がある」
と語った。
そして、朝日新聞記者が「東京五輪は医療現場からも開催を不安視する声が上がっているが」と聞くと、こう答えた。
「私は判断する立場にない。(しかし)一般医療に負担がかかっている状況はよくない。感染を下火にすることに注力するべきだ」
と事実上、中止すべきだと語ったのだった。
(福田和郎)