米国のバイデン大統領が初めて対面で首脳会談をする相手に選ばれたとあって、喜び勇んで米ワシントンに飛んだ菅義偉首相。「ヨッシー」「ジョー」と親しげに会談に臨んだが、肝心の東京五輪開催については「つれない態度」で袖にされた。
バイデン大統領を東京五輪に招待し、開催の機運を大いに高めることを目論んだのだが、
「ヨッシー、君の努力は認めるよ」
としか言ってもらえなかったのだ。いったい何があったのか?
「五輪開催、無責任では」ロイターの質問を無視
主要メディアの報道をまとめると、2021年4月17日未明(日本時間)に行われた、菅義偉首相とバイデン米大統領の共同記者会見の模様は、こんな案配だった。
記者会見に先立ち発表された共同声明では、今夏に行われる予定の東京五輪・パラリンピックについては、
「バイデン大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅首相の努力を支持する」
と記されたものの、バイデン大統領が開催自体を支持するという明確な表現はなかった。そこで、記者団から東京五輪についての質問が相次いだ。
ロイター通信の記者が二つ質問した。バイデン大統領にイラン問題について聞いたのに合わせ、菅首相に対してはこう聞いた。
「公衆衛生の専門家たちが、日本は東京五輪を開催する準備ができていないと指摘しているなか、開催するのは無責任ではないですか?」
と質問したのだった。
バイデン大統領は、自らが回答した後に「あなたの番ですよ」とばかりに横にいる菅首相を見やった。菅首相はロイター通信の記者の問いかけに無視を決め込み、日本メディアへ質問を促した。バイデン大統領も無反応だった。指名を受けた日本側の記者が、
「バイデン大統領は米国選手団の派遣を約束したのか?」
と聞くと、菅首相は、
「(会談で東京五輪を)世界の団結の象徴として実現する決意を伝えた。大統領から改めて支持をいただいた」
と、かみ合わない回答。
また別の日本人記者が、菅首相の「世界の団結の象徴として実現する」という発言をとらえて、
「これまでは、東京五輪を『コロナに打ち勝った証し』として開催すると言っていたではないか」
と聞くと、
「特別表現を変えた理由はありません。五輪前のいくつかある目標の一つとして理解してください」
と、再びピント外れの回答に終始したのだった。
米国に出発する前は、記者団から、
「首脳会談では、バイデン大統領に東京五輪開会式への参加を要請するのか」
と聞かれて、菅首相は、
「当然、そういうことになる」
と述べていた。また、自民党政務三役の一人も首相の訪米前、記者団に
「大統領の五輪出席を確約してもらい、開催機運を高める」
と意気込みを語っていた。
しかし、出席要請の話を持ち出せなかったようだ。開催まで100日を切るなか、バイデン大統領から明確な「お墨付き」を得られなかったことは痛手だ。
「努力」は支持するが、「開催」は支持していない
バイデン大統領が菅首相に「東京五輪の開催支持」の明確な言質を与えなかった理由は何か。
毎日新聞(4月18日付)「東京五輪『コロナに勝利』使わず 日米協調、一部すれ違い」は、こう伝える。
「菅首相は共同記者会見で、『バイデン大統領から(開催の)決意に対する支持を改めて表明していただいた』と胸を張った。超大国である米国の『支持』に、大会組織委員会の幹部は『久しぶりのグッドニュース』と声を弾ませた。国内では、大阪で公道での聖火リレーが中止されたほか、自民党の二階俊博幹事長の『中止』発言で火消しに追われたばかりだ」
記者会見で菅首相に質問を無視されたロイター通信は4月16日、
「『パンデミックを封じ込められない東京五輪は再考しなければならない』と世界に報道した」
毎日新聞が続ける。
「今回、米政権が『支持』を表明したことで、ひとまず中止への流れが加速する事態はさけられたが、バイデン大統領が会見で自ら五輪に触れることはなかった」
そもそも、米国の「支持」は本当に「開催することに対する支持」なのかと、毎日新聞は疑問を投げかける。
「2月の主要7か国(G7)首脳会議でも、バイデン大統領を含むすべての首脳から『支持』を得たが、この時も『日本の決意を支持する』との表現だった。今回の共同声明でも『菅首相の努力を支持する』と記すにとどまった。このため、開催自体は支持していないのではとの見方もある。ある大会関係者は『本当に賛成したか疑問が残る。開催を支持する表明ではないのでは』と不安を口にした」
日本政府の「決意」や「努力」は認めます、という外交辞令ではないか、というわけだ。G7首脳会議の時は「決意」という重い言葉だったが、今回はより軽い「努力」に変わったことも気になる。
日本経済新聞(4月18日付)「米『五輪への努力支持』 菅首相『世界の団結の象徴』」も、バイデン大統領の冷ややかな態度をこういぶかしがる。
「共同声明で米国は『首相の努力は支持する』と明記したものの、選手団の派遣などには言及しなかった。会談後の共同記者会見で東京五輪について語ったのは首相だけだ。バイデン氏は会見で男子ゴルフ、マスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手を『日本人がどれほど誇らしいと思ったかわかる』とたたえた。しかし、五輪種目でもあるゴルフに触れながら、東京五輪そのものについては口にしなかった」
そして、背景についてこう説明する。
「新型コロナの感染拡大への懸念がある。開催まで100日を切ったとはいえ、感染力が高い変異ウイルスも広がり、世界的に新型コロナに関する見通しが立たない。米国内も不透明さを抱えるなかで、開催や参加を明言するのはリスクがある」
政治アナリストの伊藤敦夫氏は、スポーツニッポン(4月18日付)の取材に、こうコメントした。
「『ヨシ』『ジョー』と呼び合っていたが、これは『ロン・ヤス会談』から続く儀礼的なもの。可も不可もない。東京五輪開催について、菅首相は米国の全面的な支持を期待していたのだろうから、『努力を支持する』という表現にとどまり、肩透かしに終わった印象は否めない」
記者に答えられない総理なんて日本の恥だ
菅首相がロイター通信の記者の質問をスルーしたことに、ネットには怒りと批判が殺到した。
「菅首相の一番のダメなところは、質問をスルーするところ。私たちを代表して一番大切なことを聞いてくれている記者に失礼ですよ。たくさんの言葉を武器にもって何か答えなさいよ! といつも思います。表現力、説明力、誘導力、説得力。全部足りない。役人が書いた原稿を棒読みするだけ。もう恥ずかしいから、海外で記者会見してくれるなと思います」
「官房長官の時から、記者の質問を無視するオレ様、スゴイだろうとか思っていたのでは。日本の記者クラブでは、無視されても声を上がる記者がいないから、聞いたことに答えなくても再度の質問はお断りというルールがまかり通る。しかし、アメリカ人ははっきり自分の意見を主張できない人を軽蔑する。日本の首相は無能だとアメリカ人記者に思われてしまった。こんな首相を海外に出したことは日本の大失敗だ」
「短くてもよいから、ちゃんと答えるべきだったね。お得意の『ご指摘は当たりません』でもよかったのに」
ロイター記者の質問内容を想定していなかったことにショックを受けた人が多かった。
「『コロナ対策ができていないのに(東京五輪を)開くのは無責任ではないか』って......。こんなに簡単に予想できる重要な質問に対して、菅首相本人を含め、周辺の誰も答えを用意していない無能さに愕然とします。質問を思い付かなかった、あるいは答えを用意できなかった時点で、もう東京五輪は終わりだと思います」
(福田和郎)