先人たちの知恵が下敷きに
正直言って、評者はこの本を買ったはいいが、あまりの分厚さに辟易し、読まずにいた。取り上げようと思い、読み始めたら、あまりのわかりやすさに驚くとともに、多くの人に読んでもらいたいという気持ちになった。
偉い先生が書いた本なら、梅棹忠夫の「知的生産の技術」、川喜田二郎の「KJ法」、渡部昇一の「知的生活の方法」など、ある。本書は匿名の一市民が自分の体験を基に書き上げたところに意義がある。
最終章は「ある独学者の記録 数学」となっている。プロフィールには、「・高校時代、文系コースを選んで数学を捨てていた私立大学の新入生 ・第一志望には受からず滑り止めだった大学の経済学部に入学した ・数学をやる必要に迫られて「何からやったらいいのだろう」と途方に暮れている」とある。
そして、「長岡先生の授業が聞ける高校数学の教科書」というテキストと音声ファイル、解答集が付いた本を買い、勉強を進める様子を書いている。次第に問題が解けるようになり、次に「改訂版 経済学で出る数学」にあたっているところで、本文は終わる。
最近、書店で高校レベルの教科書、参考書を買い求める社会人が多いそうだ。学び直しをする人が増えているということだろう。
著者はあとがきで、こう書いている。
「この書物の中で、独学は孤学ではないと繰り返し述べてきた。私の独学は、最初は図書館によって、その後加えてインターネットによって、支えられてきた。両者は、独力では決して出会うこともなかった文献や貴重な資料に、そして無数の先人たちが重ねてきた知的営為に、何度も出会う機会を与えてくれた」
この本を手元に置き、悩んだときは、いつでも開けるようにしたい、と思った。厚さ5センチ以上もあるから、どこにあるかはすぐにわかるし。(渡辺淳悦)
「独学大全」
読書猿著
ダイヤモンド社
3080円(税別)