コロナ禍は2年目に入り、「ニューノーマル」といわれる、それまでとは一変した生活が日常として定着しつつある。どんな生活であっても、そこには日々の営みがあり、新しい生活スタイルに合わせた新商品が次々登場している。
特に盛り上がりを見せているのが、この1年で取り巻く環境が大きく変わったビールだ。
キリンVSアサヒ 「ビア樽」サービスで火バナ
ビールは外出自粛に加え、飲食店の休業や時短営業によって「仕事帰りに居酒屋で一杯」の機会はめっきり減り、アルコール飲料の中でも特に業務用の比率が高いビールは影響を大きく受けた。
人口減などで国内ビール市場は頭打ちにあるが、2019年までは前年比で1~2%程度の減少にとどまっていた。これが2020年は9%程度と大きく落ち込み、なかでも業務用に強いアサヒビールの売上金額は15%を超える減少だったという。
ビール業界では2020年10月の酒税法改正でビールが減税となったことに期待が高かったものの、コロナ禍の落ち込みはとても補えなかった。
一方、コロナ禍では「オンライン飲み会」といった新たな飲酒スタイルが登場した。在宅時間が長くなったことで、家飲み需要が拡大して、低価格の「第3のビール」を中心に缶商品の好調ぶりが目立った。
そこで2021年春にキリンビールとアサヒビールが、それぞれ本格的に始めるのが、工場から家庭に新鮮な生ビールを直送して、専用サーバーで楽しんでもらう会員制のサービスだ。
キリンは2017年から、このサービスを限定的に提供していたが、全国(沖縄県と一部離島を除く)に拡大する。月2回直送され、看板商品の「一番絞りプレミアム」のほか、数種類のクラフトビールからも選べる。1か月当たり4リットルと8リットルから選択でき、4リットルなら月額8250円から。2021年内に数十万人の会員獲得を目指しているという。
一方のアサヒは、こちらも看板商品の「スーパードライ」の2リットル樽を月2回、工場から直送する。月額料金は7980円で、3万人の会員を目標としている。
両社はビール類のトップシェアを長く争っており、2020年はキリンがアサヒを上回った模様だ。「ビール離れ」が指摘されるなか、上位2社が同様のサービスに乗り出すことで、再びビールへの関心が高まりそうだ。
キリンVSサントリーは「糖質ゼロ」対決
他にもビールを巡って盛り上がっているのが、キリンとサントリーの「糖質ゼロ」対決だ。先行するキリンは2020年10月に「一番絞り」ブランドの糖質ゼロビールを発売。販売目標を大幅に上回ってビールでは久しぶりのヒット商品となり、新たな需要の掘り起こしに成功した。
対するサントリーは約5年かけて開発した「パーフェクトサントリービール」を2021年4月に発売した。「糖質ゼロ」のような機能性アルコールは、これまで発泡酒や第3のビールが主戦場だったが、ビールでも相次ぎ登場したことで販売合戦はヒートアップしている。
コロナ禍の収束は依然として見通しがつかず、ビールの外食需要もコロナ前の水準まで戻るのはいつになるかわからない。新たな商品やサービスを投入して、拡大する家飲み需要をいかに捉えていくか。メーカー各社の底力が問われてくる。(ジャーナリスト 済田経夫)