「初めてまともなことを言ってくれた!」
と、二階俊博・自民党幹事長(82)の評価がネット上で上がっている。
2021年4月15日、TBSのCS番組で東京五輪・パラリンピックについて、
「新型コロナウイルスの感染が拡大して、とても無理というならスパッとやめなきゃ」
と、五輪中止の選択肢があると認めたのだ。
国民感覚から言えば当たり前の話だが、何が何でも開催と突き進んでいる政府や東京五輪組織委員会、そして政界に衝撃が走った。
「老獪なあの人のことだから、ウッカリ失言ではないな」
と憶測が飛んでいる。
河野大臣と組んだ菅内閣を助ける発言
日刊スポーツ(4月16日付)の取材に応じた政治アナリスト伊藤惇夫氏は「二階氏の発言は軽口じゃなく、菅内閣が深手を負わないための発言だ」として、こう語った。
「軽口ではなく、それなりに先を読んでの発言だ。五輪を最大の浮揚策とする菅政権は開催に向けて突き進むが、感染の拡大に一般世論は中止、延期を求める声が7割だ。国際世論もニューヨーク・タイムズが『一大感染イベントになる』と報じたように、五輪包囲網が狭まってきている。このままやみくもに突き進み、新たな事態が発生すれば菅内閣はつぶれる。何が何でも開催するわけではないと、世論に配慮した発言をした。軌を一にするようにワクチン担当の河野太郎大臣も無観客に言及した。聖火リレーでクラスターが発生したら終わりになる状況のなか、菅内閣が深手を負わないための発言は続くだろう」
ジャーナリストの星浩氏も、4月15日放送のTBS系「news23」の中でこう語った。
「時々ピント外れの発言がある二階さんですが、今回は計算づくで発言したようです。今、政府与党側は菅首相をはじめ必ず開催するんだ、と一色になっていますから、二階さんとすれば、いや、もしかしたら中止だってありうる、柔軟なところもあるのですよ、というところを見せておこうという狙いがあると思いますね」
「中止になった場合に深手を負わない予防線」という見方も多かった。西日本新聞(4月16日付)「『五輪中止も選択肢』二階氏発言の思惑は」が、こう伝える。
「自民党内からは『中止になった場合に首相の政治責任が追及される事態を避けるための予防線では』などの臆測が広がる。もし五輪中止となれば政権運営へのダメージは計り知れず、感染拡大の責任と相まって党内で『菅降ろし』が起きかねない。二階氏が首相の後見役であることから、九州選出のある議員は『五輪中止の選択肢もあると先手を打った。中止イコール退陣ではないと誇示した』とみる。ベテラン議員は『首相は内心ホッとしているのでは。中止になっても自分だけの考えじゃないと主張できる』と声を潜める」
ということは、「中止」への布石が始まっているということか。
訪米の菅首相のハシゴを外すのが狙いでは
もともと夏の五輪開催は困難だ、2024年に延期すべきだというのが持論の日本維新の会代表の松井一郎大阪市長も記者会見で、我が意を得たりとばかりにこう語った。
「与党幹事長の影響はとてつもなく大きい。政府や東京都の判断を左右する。二階氏と小池百合子都知事の人間関係は濃密だ。(中止に向けて)相談の上ではないか」
一方、二階氏は必ずしも菅首相のために動いていない、むしろハシゴをはずすためでは、とみるのは日刊スポーツ(4月16日付)「政界地獄耳」である。こう指摘する。
「二階発言をただのアドバルーンとみるか、菅義偉首相の訪米に合わせて発言し、首相のハシゴを外すことが目的かなど憶測が飛び交う。その中で、自民党ベテラン議員は言う。『自民党内は今複雑な構造の中にいる。菅で勝てるのかという不安はこの半年の政権の仕事ぶりや政権の態度、ことに首相の物腰などのイメージによるところが大きい。4回生までの安倍チルドレンは、言葉足らずで国民に誤解を与えることのオンパレードがリーダーにふさわしくないと思っている。学術会議問題から始まり、長男の別人格発言、最近の処理水放出決定など、いずれも丁寧に説明すれば国民の理解が得られそうだが、それができない』」
と、菅首相では選挙を戦えないという動きがあり、あえてバイデン米大統領に五輪の協力を仰ぐ訪米の日に合わせて冷や水を浴びせた可能性を指摘する。
日本の政界のドンが「五輪中止」発言をしたことは、世界にも波紋が広がった。英ガーディアン、豪ABC放送、米ブルームバーグ、ロイター通信、米ワシントンポスト、五輪専門ニュースサイト・インサイダーゲームなどが「日本のキングメーカーが五輪のキャンセルが選択肢とあることを認めた」などと報じた。
英医学誌「無能な日本政府はパンデミックを引き起こす」
そんななか、世界的に権威のある英国の医学誌が、「東京五輪はパンデミックを引き起こす。開催を再考すべきだ」と警告する論文を発表した。TBSニュース(4月15日付)「英医学誌 『東京五輪開催再考すべき』」が、こう伝える。
「英国の医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』は4月14日付で、『今年夏の東京五輪・パラリンピックを再考せよ』と題した論説記事を掲載した。記事の中で、日本の限られた検査体制とワクチン接種の遅れは政治的指導力の欠如が原因と指摘。五輪開催までに一般人はおろか医療従事者や高リスクの人たちへの接種も完了できないだろうとした。また、無観客で開催にしても選手や関係者が入国、変異ウイルスが流入し感染が拡大する懸念がある。さらに、科学的・倫理的な責任を無視して東京五輪を内政的・経済的な目的から開催することは、人類の健康と安全に日本が貢献することと矛盾すると批判した」
日本政府はほかのアジア太平洋諸国に比べても、政治的指導力がお粗末で新型コロナを封じ込めていない、とも指摘しており、まことに耳の痛い指摘だ。
ところで東京五輪を今、中止したらどうなのだろうか――。毎日新聞(4月16日)「開催・無観客・やらない どの選択肢も悲劇」によると、もうどの選択肢を取っても全員に明るいハッピーエンドはない状況だという。
同紙によると、まず通常どおりの観客を入れたうえでの開催だが、
「9000億円を見込むチケット収入も一定程度入る。しかし、観客同士の感染リスクは避けられない。会場内で感染対策を取っても、全国から観客が首都圏の会場に集まるため、五輪が感染拡大の引き金となるとの見方がある」
無観客を決断すると、どうか。
「警備費を削減できるうえ、観客のため各会場に配置する予定だった医療従事者の数も減らすことができる。しかし、海外分に加え、国内で販売済みの364万枚のチケットを払い戻さなさければならない。チケット収入がゼロになり、大会経費が赤字になれば、東京都か国が公費で補填する必要がある。政府関係者は『チケットを持っている人は五輪を支持してくれる貴重な味方。敵に回したくない』と懸念を示す」
すると、やはり中止がベストなのか?
「関連経費を含めて3兆円もの巨費が見込まれており、政権批判は避けられない。IOCのバッハ会長も明確に否定する。決断の時は刻一刻と迫っている。森喜朗・前会長の辞任でキーマンが不在になった。組織委関係者は『みんな誰かがハンドルを持っていると思ったら、誰も持たずに進んでいたという状況に陥っている』とこぼした」
森喜朗・前会長がいたほうがよかったなんて、お先真っ暗ではないか。
(福田和郎)