「初めてまともなことを言ってくれた!」
と、二階俊博・自民党幹事長(82)の評価がネット上で上がっている。
2021年4月15日、TBSのCS番組で東京五輪・パラリンピックについて、
「新型コロナウイルスの感染が拡大して、とても無理というならスパッとやめなきゃ」
と、五輪中止の選択肢があると認めたのだ。
国民感覚から言えば当たり前の話だが、何が何でも開催と突き進んでいる政府や東京五輪組織委員会、そして政界に衝撃が走った。
「老獪なあの人のことだから、ウッカリ失言ではないな」
と憶測が飛んでいる。
感染をまん延させれば、何のための五輪かわからない
自民党の二階俊博幹事長の驚きの発言が飛び出したのは2021年4月15日11時30分放送のTBSのCSニュース番組「国会トークフロントライン」のインタビューだった。
衆議院解散・総選挙の時期などを聞かれた後、話題は新型コロナウイルスの変異ウイルスが猛威を振るう中での東京五輪・パラリンピックの開催問題に移った。
感染がさらに拡大しても東京五輪は開けるのか、と聞かれた二階俊博幹事長は、こう答えたのだった。
「これ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなきゃいけない」
「ええッ!」と司会者が驚き、「開催中止も選択肢の中にあるのか?」
と改めて聞き直すと、こう答えたのだった。
「それは当然だ。オリンピックで感染をまん延させたとなれば、何のためのオリンピックかわからない。その時の状況で判断しなくてはならない」
TBSがyoutobe上に公開している同番組の動画を見直しても、二階氏は終始落ち着いてインタビューに答えており、感情的になったり、ウッカリ口を滑らしたりしたわけではなさそうだ。だいいち生番組ではなく収録だから、「しまった」という意識があれば修正可能のはずだ。
また、二階発言の放送より3時間前の同日朝、ワクチン接種担当の河野太郎・規制改革担当大臣がテレビ朝日の情報番組「モーニングショー」に生出演、東京五輪の開催のあり方について聞かれて、こう答えた。
「こういうコロナの状況では、開催できるやり方でやるということだと思う。それはおそらく、無観客ということになるのかもしれない。いつものオリンピックとはやり方が違うのだと思う」
と、閣僚としては初めて「無観客開催」に言及したのだった。
観客問題については海外からの受け入れ断念は決まっているが、国内観客をどのくらいの規模で会場に入れるかは、組織委は5月に決めるとしている。こちらも二階氏同様にずいぶん踏み込んだ発言だ。
小池都知事「叱咤激励のメッセージです」
二階氏発言の衝撃が、瞬く間に政界と大会関係者に広がった。
小池百合子都知事は、記者団に聞かれて、
「それ(中止)も選択肢だという発言だったと聞いている。叱咤激励、ここはコロナを抑えていきましょうというメッセージだと受け止めている」
と話した。
丸川珠代五輪相も、
「文脈から『しっかりと準備し、予断を持って臨むのではなく、きちんと柔軟に対応しなさい』という指示だと理解しています」
と述べた。
橋本聖子・組織委会長も、
「二階先生は心配のお気持ちだと思う。身の引き締まる思いで発言を聞かせていただいた。安心安全な舞台をつくるのが責務です」
と述べて、みんな一様に「中止」には触れなかったのだ。
二階氏は同日午後、あまりに反響が大きかったせいか、報道陣にファクスで釈明文書を送った。
「自民党として安全、安心な開催に向け、しっかり支えていくことには変わりはない」
と説明しつつ、
「何が何でも開催するのかと問われれば、それは違うという意味で発言した」
と書き、「中止」の可能性をまったく否定しなかった。
一方、政府対策分科会の協議を終えたばかりの尾身茂会長は、五輪開催の是非を問う報道陣に次のように語った。
「五輪開催についてはわれわれ分科会、諮問委員会、(厚生労働省の)アドバイザリーボードでも意見を求められていない。だから二階幹事長の考えが良い悪いというべきでない。五輪とは関係なしに、今の東京は重点措置を成功させないといけない。大阪は最初のラインを超えてしまった。東京はこういうことに絶対させてはいけません」
二階氏といえば、菅義偉首相の「後見人」であり、小池百合子都知事にも近い、老練極まりない政治家である。いったい、どんな狙いがあって「中止発言」をしたのか。ほとんどのメディアが「うっかり失言した」とは思っていない。
毎日新聞(4月16日)「『五輪中止』火消しに躍起 二階氏タブー言及」は発言の背景について、こう説明する。
「日本の大会関係者にとって『中止』は最も恐れる事態だ。新型コロナの感染状況が悪化しても政府や組織委は『開催ありき』の姿勢を崩さなかった。二階氏はすぐに釈明コメントを発表し、『何が何でも開催するのか、と問われればそれは違う』と説明した。しかし、『何が何でも開催する』という姿勢を貫いてきたのはIOCだ。『人類がコロナに打ち勝った証し』と繰り返し、開催に向けて突き進んできた」
二階氏はその誰も言えなかった「IOCのタブー」に挑戦したのかもしれない。だからこそ、二階氏の真意と狙いをめぐり大会関係者は戸惑っている。そして悲壮な覚悟でこう語るのだった。
「大会関係者の間で『中止』という言葉はタブーのはずだった。大会関係者は『中止となったら菅政権が持たない。投じた費用が無駄になるくらいなら突き進むしかない』と話した」
(福田和郎)