汚染処理水の海洋放出  原発推進派と反対派それぞれの言い分

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原発推進派の新聞は丁寧に主張を述べよ

   これらに対して原発容認・推進の3紙では、日経が、「これまでの努力が無駄になりかねないという(地元漁業者の)不安は当然だ」と強調し、「この間、地元との丁寧な対話や周辺国に理解を求める取り組みが十分だったとは言えない」と政府の対応を批判し、理解を得る努力、情報発信の透明性などを要求している。

   読売新聞と産経新聞も風評被害に言及し、政府の努力を求めるが、論旨の重点は海洋放出の必要性を説き、政府の決定を支持することにあるようだ。

   読売は「これ以上の先延ばしは許されない状況と言える。......他に選択肢はなかっただろう」としたうえで、「今回の処理水放出を決断するまでに10年を費やした。

   膠着状態を打開し、前に進むためにリーダーシップを発揮したとは言い難い。国民に不人気の政策から逃げず、廃炉と復興を進める強い意志を示すことが不可欠だ」と、政府の対応の遅れを原発推進の立場から指摘する。事故からの10年間のうち8年近く続いた安倍晋三前政権の「不作為」への批判ということになる。

   産経新聞はこれまで、「原発処理水 海洋放出の具体化に動け」(2019年11月21日付)「放出の選択肢は絞られた」(2020年1月14日付)など、繰り返し海洋放出決断へ政府の尻を叩いてきただけに、今回の社説「主張」で「ようやく事態打開の可能性が見えてきた」と歓迎。「菅氏は首相就任後の昨年10月と12月にも決定を検討したが、いずれも見送られた経緯がある。3度目となる今回は、ぜひとも放出への道筋をつけてもらいたい」と、クギを刺している。

   ただ、原発へのスタンスに関わらず、トリチウムの放出自体は科学的に問題なしということでは、全紙の社説が共通している。この点について、4月14日朝刊の一般の記事では、毎日新聞が2面に安全性について論じた「放射線 影響は軽微」との見出しの80行ほどの記事を掲載。全体として計画のように放出しても問題はないとのトーンながらが、「海にすむ生物が体内に取り込むことによる『生物濃縮』の可能性は専門家でもわかっていない。......どのように濃縮していくかは、未解明の部分も多いという」などと、かなり詳しく書き込んだ。

   東京新聞も1面の「残るトリチウム 情報の透明性必要」との記事で、「環境への蓄積により水産物を食べることで内部被ばくにつながるのではないかという見方もある」と指摘した。

   風評被害は、突き詰めれば、消費者が安心できるかということに行き着くことを考えると、トリチウムは海に流してもいいか、というそもそも論にも繰り返し立ち返る必要があるはずだ。1日だけの紙面ですべてを網羅できないのは当然だが、原発推進論の新聞こそ、こうした点も丁寧に書く必要があるのではないか。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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