新型コロナウイルスの感染が急拡大するなか、東京五輪・パラリンピック開催まで2021年4月14日であと100日になった。
いったい、東京五輪は開くことができるのか? IOC(国際オリンピック委員会)は同日、「断固開催する!」と宣言した。一方、海外の有力紙は相次いで「中止すべき」と訴える。
政府・五輪組織委員会からは、変異ウイルスの猛威にシナリオを崩されて弱気の声も聞こえてくる。
しかし、誰も中止の決断をしない、いや、できないまま突っ走ることになりそうだというのだ。どうなる、ニッポン?
日本の安全対策を無視する外国人関係者
政府や五輪組織委員会が「安心・安全な大会」を目指す感染症予防対策の柱にしているのは、選手や大会関係者を、泡で包み込んで外部との接触を遮断して新型コロナウイルスから守る「バブル方式」だ。しかし、それが外国人に守られるかどうか、懸念の声が上がっている。
日本経済新聞(4月14日付)「大会運営、世界が注視 日本の防疫、安全守れるか」が、こう指摘する。
「飛び込みのワールドカップ(W杯)など3つの大会を中止する――。4月2日未明、国際水泳連盟(FINA)から日本側に届いたメールが組織委や政府に冷や水を浴びせた。コロナ禍による中断を経て、4月から再開された計18の東京五輪・パラリンピックのテスト大会。飛び込みのW杯は約600人の選手・大会関係者を海外から招き、本格的に感染対策を検証する場だった」
ところが、FINAは大会役員らが入国後3日間のホテル待機を求められたことに反発。中止すると駄々をこねたのだ。現在、テスト大会を開くために調整中だ。「バブル方式」では、感染予防のための3日間の待機など基本中の基本だ。もっと煩雑で厳格なルールが山ほどある。日本経済新聞の取材に政府関係者は、
「感染対策と大会開催を両立させる難しさを痛感した」
とぼやいたのだった。
東京新聞(4月14日)「頼みの『バブル』難題多く 選手と外部の接触を徹底遮断」も、同様の深刻な悩みをこう伝える。
「1月にエジプトであったハンドボール男子の世界選手権。移動には専用バス、宿泊先と試合会場だけの往復に終始した。選手の1人は『PCR検査を18回も受けた。できれば二度と経験したくない。外にも出られないし、誰とも接触できない』と、その厳しさを訴えた。対策は選手にも心理的な負担をもたらしたのだ」
国内では今年3月、厳重な防疫措置を条件にサッカーの国際試合が許可された。海外クラブ所属選手を含めた男子の日本チームと韓国など来日3チームの計約200人の3試合だった。日本代表の選手の1人は、東京新聞の取材に、
「海外組の選手と食事会場が違ったり、エレベーターに乗る際は時間をずらしたり、厳重だった。厳しい外出制限もあった」
と話した。しかし、日本人選手は守ったが、厳格なルールを守らない海外勢が少なくなかった。
日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、
「文句を言う人もいた。事前に説明していたが、全員に行き渡っていなかった」
と明かしたのだった。
東京新聞が続ける。
「団体競技では、選手1人が陽性と判定されれば、チームが棄権したり、試合自体が中止になったりする可能性がある。実際にハンドボールの世界選手権では途中棄権を余儀なくされた代表チームもいた」
たった1人でも感染者が出ると、大変なことになるわけだ。
ワクチン優先接種のためにパラ選手を利用
そのため、IOCはワクチン接種を選手に奨励しているが、参加の条件にはしていない。政府も組織委も日本の代表選手にワクチン接種を義務付けてはいない。しかし4月8日、政府が代表選手に優先的にワクチン接種をすることを検討しているという報道が流れ、「医療従事者や高齢者にも行き渡らないのに何事だ!」と怒りの声が殺到した。
政府は打ち消しに大わらわだったが、まだひそかに検討しているようだ。毎日新聞(4月14日付)「『選手にワクチン』本音隠す 変異株拡大 JOC、世論反発恐れ」によると、
「日本側は選手のワクチン接種を推奨するIOCと一線を画し、ワクチンに頼らない感染対策を模索してきた。『バブル方式』だ。しかし万全とはいえない。小規模な国際大会では感染例が後を絶たない。このため、競技関係者の間からは『早くワクチンを打たせてほしい』との声も聞こえる」
としている。
日本オリンピック委員会(JOC)は表向き選手の優先接種を認めない構えだが、米国などの主要国でワクチン接種を受ける選手が増えている。日本だけが取り残される恐れがある。そこで、パラリンピックの選手を前面に出そうというのだ。
毎日新聞が続ける。
「ある大会関係者は『JOCもワクチンを打ちたいのが本音だが、言えば逆効果になるから切り出せないだけ。基礎疾患のあるパラ選手を理由にすれば理解も得られるのでは』と語り、国民の理解を得るための理屈を探っている」
選手に「もし開催されるなら」と言わせないで
これでは、東京五輪・パラリンピックに出る選手たちも肩身の狭い思いになるだろう。そんな選手たちの気持ちをデイリースポーツの五輪担当キャップの大上謙吾記者が、署名入りコラム「東京五輪まであと100日 コロナ感染抑制の成功例示せなければ光は見えてこない」(4月14日付)でこう書いた。
「機運が高まらない状況が続き、アスリートたちも厳しい立場に立たされている。100日後、果たして東京五輪は開催できるのか。現場の肌感覚でいえば、リスクをはらむことは分かっていながらも、決定的な何かでも起こらない限り、国、都、組織委、IOC、どこも中止の決断はしない、いや、できないとみる。開催されれば、多くのトラブルや問題が起こる可能性は高い」
「同時に池江璃花子や松山英樹が示してくれたように、スポーツの力、アスリートたちの活躍により盛り上がることも間違いない。だから、せめて、多くの人たちに応援される中で、大会が始まってほしいと願う。どれだけ大会側が『安全安心』を主張しても理解は得られていない。『納得は安心を連れてくる』。某自動車保険のCMフレーズだが、納得できる材料を示せていないことが最大の要因。IOCのバッハ会長の言う『トンネルの先の光』という希望論ではなく、ここまで感染を抑えれば、こうすれば開催できるという具体的な数字であり、対策であり、成功例だ」
そして、大上記者はこう結ぶのだった。
「今、選手たちの東京五輪に向けた言葉には、前置きが入る。『もし開催されるなら』。選手もまた一歩引いた視点を持たなければ、気持ちを保てない状況が続く。あと100日。さすがにもう、そう言わせてはいけない時期にきている」
(福田和郎)