新たな仕事をためらう若手社員への叱責〈前編〉【第3回】(前川孝雄)

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   「ハラスメントが起きにくい職場を創る」シリーズ第3回からは、上司と部下のケーススタディを通してパワハラ予防の心得と対応のポイントを押さえていきます。

   今回は、組織で新規事業を決定した(上層部から新たな仕事が示された)場面での対応CASEから考えましょう。

  • 部下の異論を「チームの和を乱す」とすぐに叱責していませんか?
    部下の異論を「チームの和を乱す」とすぐに叱責していませんか?
  • 部下の異論を「チームの和を乱す」とすぐに叱責していませんか?

CASE 「社員の義務を果たしなさい!」

◆ チームの定例ミーティングでの会話

上司「先日の経営幹部会議で新規事業開発プロジェクトの実施が決まった。会社を挙げての大事な大きな仕事だ! ついては、AさんとB君にメンバーとして加わってほしい。来週早々にも第1回会議があるので、よろしく頼むよ」
Aさん「新規プロジェクトの噂は聞いていましたが、まさか自分が加わるとは考えていませんでした。新たな担当を持つには、不安があるのですが......」
上司「そんな消極的なことでは困るな。会社命令なわけだから、前向きに取り組んでもらいわないと」
Aさん「でも、私に務まるでしょうか。今の担当業務もそれぞれ大事な節目の時期で、早々には手放せませんし。新たな事業の趣旨もよく伺っていませんので......」
上司(声を荒げて)「君はいつもそうした後ろ向きな発言が多いな。このチームに大きな期待がかかっていることがわからないのか! 自分のことしか考えない無責任な態度は問題だぞ。ちゃんと給料貰っているんだから、社員としての義務や責任を果たすのは当然だろう」
Aさん「......(そんな言い方、ひどい!)......」

《 解説 》
   経営層が新規事業開発の意思決定をしました。社運を賭けたプロジェクトの一翼を担うのは、自分にとってもチームとしても名誉なことです。そこで上司のあなたは、若手部下を抜擢し、チーム内の体制を整え、円滑なスタートを切ろうとしました。
   しかし、意中の部下からは消極的な反応が返ってきました。あなたは心穏やかではありませんが、会社命令なので速やかに対応しなければと考えます。
他の部下へ示しもつかないため、消極的な部下を強く叱責し翻意を促しましたが......。

ハラスメント・リスク
   やや極端な事例に感じられたかもしれません。しかし、こうした言動には至らないまでも、この上司のような心情を抱いた経験はありませんか。この事例のように、自分が前のめりになっていたり、思いが強い場合など、とっさに部下を叱責しがちです。
   しかし、この事例の状況で、部下に対し声を荒げて「いつも後ろ向きだ」「自分勝手だ」と述べるのは不適切です。特に、メンバーの前で相手の人格を傷つけたり侮辱したりする言葉を使うことは、「精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言)」のハラスメントにあたると指摘される恐れがあります。
   そうでなくても、部下とのその後の信頼関係を傷つけるものです。
   上司の依頼に対し、部下は不安を投げかけているのですから、ここで相手の姿勢を「やる気がない」と決めつけ、一方的に叱責するのは拙速です。

   上司のアンコンシャス・バイアス(固定観念、無意識の偏見)

   このケースで、上司が部下に不快な感情を覚え、ハラスメントと受けとられる発言をしがちな背景には、上司の仕事や部下に対するアンコンシャス・バイアスが考えられます。

   「会社や上司が指示した仕事を重んじ、精励するのが部下の務め」「どんな仕事にもまず前向きに取り組むのが、会社員の義務」といった固定観念です。また、「今の若手社員は、自分がやりたい仕事しかやろうとしない」「新たな仕事は負担と考え避けたがる」といった無意識の偏見も考えられます。

   しかし、こうした上司が長らく培ってきた価値観は、部下側から見た感覚とズレている可能性があり、事例のようなハラスメント・リスクに発展する場合が考えられるのです。では、部下の言動はどのような価値観によるものなのでしょうか。

   次回の「後編」では、このケースをもとに、部下の思いを正しく捉えハラスメント予防につなげるための心構えと方法を解説します。

※ 職場のハラスメント予防についてさらに詳しく学びたい方、また職場での研修導入を検討される方は、弊社FeelWorksが開発した「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」をご参照ください。

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