新型コロナウイルスの高齢者向けのワクチン接種が2021年4月13日、始まった。ただ、ワクチンの確保は大幅に遅れており、接種が本格化するのは5月以降で、いつ全員にいきわたるか見通せない状況だ。
そもそも、2か月前に始まった医療従事者への接種さえ1割しか終わっていないのに、なぜ高齢者に始めるのか?
「すべては東京五輪開催のため」
と主要メディアが報じる。
しかし、足元で変異ウイルスの感染拡大が止まらず、ワクチン接種に必要な医療従事者が不足するなど多くの難題が待ち受けている。
「高齢者は五輪開始の7月半ばに終わらせたい」
今回、対象となるのは65歳以上の高齢者約3600万人。米製薬大手のファイザー社製のワクチンが使われ、3週間の間隔をあけて1人2回接種する。ワクチンが全国の市区町村に届くのは4月26日からで、本格化するのは大型連休明けだ。菅義偉首相は4月12日、記者団に、
「6月末までに(全高齢者の)2回分のワクチンを用意し、お届けする」
と語ったが、それは全国の市町村に配布し終えるという話だ。
各自治体による接種作業はそれからで、いつ終わるのか、政府は明言を避けている。菅首相は4月12日の衆院決算行政監視委員会で、高齢者への接種終了時期について聞かれて、
「地方自治体にお願いしており、状況を見ている」
と明言を避けたのだった。
そもそも、高齢者より先に今年2月17日から医師や看護師など約480万人の医療従事者へのワクチン接種が始まっているが、すでに2か月近くたっているのに2回接種が終わったのはその1割以下の47万人だけ。その医療従事者の接種完了時期についても政府は明らかにできないありさまだ。
朝日新聞が4月13日に発表した世論調査によると、新型コロナワクチンの政府の取り組みについて、76%が「遅い」と批判している。こうした怒りの声に押されて、課題山積みのまま医療従事者と同時進行で始まった高齢者へのワクチン接種だが、医療従事者の8倍もの集団が加わることになる。いったい、いつ全員が接種し終わるのだろうか。
朝日新聞(4月13日付)「ワクチン接種、綱渡り始動」によると、東京五輪開催に間に合わせようという思惑ばかりが先行し、行き当たりばったりの状態で高齢者を始めたという。
「昨年末から『第3波』への対応が後手に回ったと批判を浴びた政権は、ワクチン接種を『頼みの綱』(官邸幹部)とする。夏の東京五輪・パラリンピックを『安全安心の大会』(首相)にするためにも、ワクチンを早期に行き渡らせることが『政権の生命線』になるとの認識は、政権幹部らに共通する。政府のスピード感に対する世論の視線は厳しい。官邸幹部は『高齢者向けは、できれば7月半ばくらいまでには打ち終わりたい』と話す」
7月半ばといえば、7月23日から東京五輪が開幕する。それまでに高齢者を終えたいのが政権のホンネだが、そうでなくても、日本のワクチン接種は恥ずかしいくらい諸外国に比べて遅れている。産経新聞(4月13日付)「ワクチン接種 日本の実施遅れ、途上国並み」によると、4月12日時点で少なくても1回接種した人の人口比は日本が0.9%だ。世界最速で接種が進むのはインド洋の島国セーシェル。人口約10万人の65.6%が接種した。2位はブータンで61.5%、イスラエル61.4%、英国47.2%、米国35.2%と続く。日本は先進7か国中ダントツのビリで、下から2番目のイタリアでも14.4%だ。日本より接種開始が遅れた韓国でも2.3%だ。