「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスマンがフォローしたい記事が詰まっている。
そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
「週刊ダイヤモンド」(2021年4月17日号)は「地銀転落・メガ銀終焉 銀行『複合』危機」というショッキングなタイトルの特集を組んでいる。ユニゾホールディングスの危機、コロナ倒産の急増、手数料収入の減収によって、銀行業界は今、収益を脅かす複数のリスクに直面しているというのだ。
ユニゾ危機が地銀に影響する?
まずは、みずほ銀行系列の不動産会社であるユニゾホールディングスに端を発する地方銀行転落の「深層」だ。きっかけは2020年、借り換え要請をしたことを機に、厳しい資金繰りの実態と金融機関との取引をめぐる「異常な状態」(地銀関係者)が露呈したことだ。
昨年9月時点での借入金は1960億円、社債は1040億円と合計3000億円の有利子負債を抱えていた。ダイヤモンド編集部が入手したユニゾHDの取引先金融機関のリストの中には地銀65行が含まれていた。
そのリストを基に「地銀のユニゾ危機影響度ランキング」を掲載している。東日本銀行(東京都)、きらやか銀行(山形県)、みちのく銀行(青森県)、百十四銀行(香川県)などが上位に並ぶ。ユニゾHDの危機時に赤字拡大、赤字転落する地銀は9行存在する、としている。
香港の投資ファンドが、「約束していたはずの債権者保護が守られていないし、ユニゾHDは債務超過に陥っている」と質問状を送り付けていることや、「債務超過ではない」とする岩倉正和弁護士の反論を掲載している。
さらに「3メガ時代」の終焉、と題した記事では、みずほ銀行が3度目のシステム障害を起こし、系列会社のユニゾHDが危機に陥っていることを受け、信頼を失った同行が「メガバンク失格」という窮地に追い込まれた、と書いている。
特集のパート3では、融資、為替、預金という銀行の三大業務が、コロナ禍や規制緩和で切り崩されている、としている。聖域だった「預金」も給与のデジタル払いの解禁によって脅かされようとしているのだ。銀行を介さないキャッシュレス時代の到来は、銀行落日の日かもしれない。
半沢淳一・三菱UFJ銀行頭取のインタビューも
さらに、特集のパート4では、地銀の「赤字転落」ランキングを掲載している。編集部が不良債権への耐久力が低く赤字転落しやすい順に並べている。
すでに基礎的な収益力が赤字に陥っている地銀が二つあり、スルガ銀行(静岡県)と福島銀行だった。島根銀行、みちのく銀行(青森県)、清水銀行(静岡県)と続く。
ジリ貧になる地銀を待っているのは、救済を目的とした地銀の大再編かもしれない。
「週刊ダイヤモンド」の第2特集は、「企業買収の新常識」。日本製鉄が東京製綱に対して行ったTOBなど、敵対的TOBが増えた背景を探っている。その主因として、2014年に策定された「スチュワードシップ・コード」を挙げている。コード導入後、株主総会での議決権行使の基準や行使結果の公表など、より説明責任が求められるようになったという。
介護大手のニチイ学館が実施したMBO(経営陣が参加する買収)やM&A総合研究所による地殻変動などの話題を取り上げている。
特集とは関連がないが、三菱UFJ銀行の新たな頭取に就任した半沢淳一氏のインタビューも興味深い。事務部門から営業部門への振り分け、4割の店舗削減によって「損益分岐点を下げる」ことや、銀行本館の建て替えについて語っている。
コロナ禍により、銀行本館の在宅比率は50~60%となり、新しい銀行本館に銀行、信託銀行、証券会社が集まるには十分なキャパシティーがあると見ている。
「グループのみんなが1か所に集まることで、スピード感を持っていろいろな判断ができることにも期待をしています」
人気ドラマで話題になった半沢頭取だが、コロナ禍による新しい働き方の推奨は、MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)の姿を変えそうだ。
「週刊東洋経済」は医療テックベンチャーを特集
「週刊東洋経済」(2021年4月17日号)の第1特集は「沸騰! 医療テックベンチャー」だ。ITと医療との相性のよさに着目して、巨大IT企業がこぞって医療に進出しているという。投資額が10年前の5倍になった世界の医療テックベンチャーの最前線を紹介している。
新型コロナウイルスの感染拡大が医療テックへの注目を高めたという。医療領域で技術革新の中心になっているのが、「オンライン医療」「AI」「ゲノム分析」「再生医療」の4領域だ。
まず、グーグル、アップル、アマゾンという米国の巨大IT企業の取り組みを紹介している。最も広範に行っているのがグーグルだ。2019年に新部門「グーグルヘルス」を設立。数百人の医師や医療関係者を抱え、AIによる疾病の画像診断や、電子カルテの開発、新型コロナウイルスに関するデータベースの整備などを手掛けている。
グーグルと同じ持ち株会社アルファベット傘下には、デジタル医療を専業とするベリリーがあり、医療機器の開発、データを活用した治療法の考案などを行っている。
アップルはアップルウォッチやiPhoneなど自社のデバイス・サービスを軸に個人の健康・医療データを活用するプラットフォームを構築。厚生労働省は今年1月、心電図アプリを家庭用医療機器として認可した。
また、アマゾンは従業員向けオンライン診療サービス「アマゾンケア」を3月から米国ワシントン州の他の企業にも提供を始め、今夏には全米に広げるという。専用アプリを開くと、症状に関するいくつかの質問があり、症状のレベルに応じて、60秒以内に医師とのチャットやビデオ通話が始まるというものだ。すでにオンライン薬局もスタートしている。
医療テックベンチャーはアメリカだけではない。特集のパート2は、日本の有望なバイオ・医療ベンチャー21社を紹介している。世界初の禁煙治療アプリを発売したCureApp、AI診察支援で誤診を減らそうとしているプレシジョン、線虫を用いた尿によるがん診断を始めたHIROMATSUバイオサイエンスなどだ。研究者が自ら立ち上げた会社も多く、創業者の顔触れを眺めていると、日本発の医療テックベンチャーが確実に根付いていると感じる。
営業利益率59%の快進撃を続ける東京大学発の創業ベンチャー、ペプチドリームについて、その強みを詳しく解説している。
また、ゲームをするだけでADHD(注意欠陥・多動性障害)を治療する塩野義製薬が開発したアプリや川崎重工業などが開発した国産初の手術ロボットも取り上げている。
上場したバイオ・医療系企業36社を選び、時価総額順に並べた表を掲載している。華々しく活躍する企業がある一方で、期待を裏切るところもあるとして、赤字の見極めを喚起している。
第2特集は「背水の百貨店」。アパレルの大量退店に悲鳴を上げる地方百貨店をレポートしている。大型専門店などのテナント化をすすめる百貨店もあるが、店舗縮小が避けられないという専門家の声も。
大丸、松坂屋を展開するJ.フロント リテイリングの好本達也社長の「百貨店の"場所貸し"は加速するしかない」というインタビューを掲載している。
また、幅広く集客するより富裕層にターゲットを置いた三越伊勢丹の新戦略にも触れている。外商顧客に金と人を投入するものだ。伊勢丹の新宿本店を中心に年間購入額1000万円以上の顧客を多く抱えるという。「ニューリッチ」といわれる若年富裕層への対応とともに、地方の上客へのリモート接客を進めるという。
「週刊エコノミスト」は、「バブル前夜 金利上昇の恐怖」を特集
「週刊エコノミスト」(2021年4月20日号)は、「バブル前夜 金利上昇の恐怖」を特集している。著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社が日本株の買い増しをするのではないか、と4月5日、市場は色めきたったという。
「外国人が先に動き、日本の機関投資家もその動きを見て、グロース(成長)株を減らしてバリュー株に順次、移行していく」というりそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・ストラテジストの見方を紹介している。
また、「ITバブル再来 年末3万5000円の『新技術バブル』」(平川昇二・東海東京調査センター チーフグローバルストラテジスト)、「高まるバブル懸念 パウエル流の金融緩和継続に FRBは一枚岩ではない」(鈴木敏之・三菱UFJ銀行シニアマーケットエコノミスト)などの寄稿を掲載している。 「財政ファイナンスによる高圧経済を多くの人は『コロナ禍だから仕方がない』と考えてきた。だが、ワクチン普及でコロナ禍はいずれ鎮静化する。そうなれば異例の政策は免罪符を失い景気の過熱や高インフレは現実味を帯びる」と、渡辺浩志・ソニーファイナンシャルホールディングス・シニアエコノミストは、米国の長期金利の上昇を懸念している。
経済の実態と乖離した日本株のバブルはどこまで行くのだろうか? たまには同誌のような地道な経済分析に目を通してみるのもいいだろう。(渡辺淳悦)