東芝2兆円買収 CVCキャピタルの提案は「混迷」から脱出するチャンスなのか?

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「買収で非上場化」で他の株主は納得するのか?

   一般的に、非上場化は株主の求める短期的な利益を追うことなく、長期的戦略は立てやすくなるのがメリットとされる。「物言う株主」と対立が先鋭化してきている東芝にとって、CVCの買収提案は「渡りに船」とも見えるところだ。

   他方、いくつか問題もある。

   まず、CVCと東芝の関係だ。東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者=CEO(元三井住友銀行副頭取)が、東芝に転じる直前の18年3月までCVC日本法人の会長を務めていた。さらに、東芝社外取締役の藤森義明氏はCVC日本法人の現職の最高顧問。特に、車谷氏の取締役再任議案の賛成率が2020年7月総会で57%余りと選任を求めた12人中最低となり、対立の構図は車谷氏vs物言う株主という様相を見せ、次の定時株主総会での車谷氏の再任の可否が今後の焦点の一つになっていた。それだけに、市場では「車谷氏がCVCを引き込んだとみる関係者が多い」(証券アナリスト)との声が聞こえる。

   もう一つは外資規制の問題だ。2020年施行の改正外国為替法で、日本の安全保障上、重要な国内上場企業の株式を海外投資家が取得する際の審査を、従来より厳格化した。中国などを念頭に、日本の技術の海外流出を防ぐ狙いで、東芝も事前の届け出が原則必要な企業に指定されている。審査は財務省と当該業界を所管する官庁が共同で行う。改正による厳格化以前でも、英投資ファンドによる電力卸大手、Jパワー(電源開発)の株買い増し計画が中止させられた例もあり、今回も慎重な審査が行われる。

   これについてCVCは、「官」の資金と組む道を模索しているとされる。政府系ファンドの「産業革新投資機構(JIC)」や政策投資銀行が候補と目され、ほかに、日本の事業会社にも参加を求めることも想定しているという。

   さらに、外為法をクリアしても、物言う株主はじめ株主が簡単にTOBに応じるとは限らない。CVCは1株5000円程度での買い取りを提示しているとされる。報道前の21年3月6日終値3830円に3割程度上乗せした水準で、報道で急騰した7日終値の4530円をも1割程度上回る。ただ、たとえば今も東芝が40%の株式を保有する非上場の半導体大手「キオクシア(旧東芝メモリー)ホールディングス」の時価をどう見積もるかで、東芝自体の評価も大きく変わりうるだけに、「物言う株主」との価格をめぐる攻防は楽観を許さない。

   東芝は利益相反を考慮して、CVCと関係がある(あった)車谷氏と藤森氏を外し、豊原正恭副社長をトップとするチームでCVCの提案を検討していくが、物言う株主はもちろん、一般株主がCVCの買収者としての妥当性や、いずれ提示される価格をどう評価するか。

   なにより、上場維持にこだわって物言う株主が引き受けるのも構わず、大型増資を実施したうえで、その株主と対立すると、新たなファンドによる買収で非上場化するということになれば、一般株主に、どう説明するのだろうか。釈然としない話ではある。(ジャーナリスト 済田経夫)

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