新年度がスタートした2021年4月1日、都道府県庁では新規職員に入庁式が行われた。
新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るうなか、多くの若者たちが住民の命と生活を守る最前線にたった。そんな非常時だからこそ、多くの知事が心の底から新入職員を歓迎し、
「一緒にこの危機を乗り越えて行こう」
と熱いエールを送った。
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部が、「心に響く挨拶」を選んでみた。
鹿児島知事「離島勤務では目、耳、そして口になって」
奄美群島やトカラ列島がある鹿児島県は、人が住んでいる離島が26、その人口の合計が約16万人と、全国でも有数の離島県だ。それぞれの島には県の出先機関があり、県庁の地域振興局が統括する。鹿児島県の場合、入庁式を終えた新規職員がそこに配属され、そのまま離島勤務に赴く人が少なくない。
そんな独特の事情もあって、鹿児島県の塩田康一知事(55)は、特にこれから離島に勤務する若き1年生職員に、力を込めて熱いエールを送ったのだった。
「地域の人口減少、高齢化の進展、それによる地域の活性化が大きな課題になっております。鹿児島県は南北600キロ、離島も多くあり、非常に多様で広い県土を有しています。今後の発展をどうやって作っていくかが、みなさん方の大変大きな使命になります。本日、地域振興局に配属された方もいらっしゃるでしょう。地域振興局の現場は、まさに県民と接する最前線ですから、より県民のみなさんの声を肌で感じ、それを本庁に伝えるみなさん方お一人おひとりが、県庁組織の目であり耳であり、また県庁の考えをみなさんにお知らせをするという意味では口であります。しっかり情報収集と情報発信を心がけて、政策にフィードバックしていくことを実践していただきたい」
そして、何より「心と体の健康に気を付けてください」と励ました後、本庁に残る同期の仲間との絆をずっと大事にしてほしいと、こう呼びかけたのだった。
「特に気をつけていただきたいのは、精神面の健康管理です。現場で大変困難な仕事に直面した時、決して一人で抱え込まずに、いろいろな人に相談してほしい。今後、みなさん方はいろいろな異動を重ねていく中で、離島に行ったり、国に出向したり、あるいは団体や海外に行ったり、幅広い仕事に携わっていきます。今日入庁されたみなさんは同期です。まずは何でも相談できるのは、同期という強い絆が育てた仲間の存在です。お互いに困ったときには助け合うのだという関係をしっかりと作っていただきたい。本日は誠におめでとうございます」
現場といえば、「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」という決めセリフを放っていたのは、刑事ドラマ「踊る大捜査線」(1998年)の青島俊作(織田裕二さん)だ。会議室の机上の空論で捜査を指揮する警視庁のお偉方に、現場を這いずり回る所轄署刑事の意地を見せて怒鳴ったのだった。
「県庁の仕事の真実は現場にある!」と青島刑事のような名言で595人の新規職員を激励したのは、愛知県の大村秀章知事(61)だった。「みなさんには現場力を養っていただきたい」と、こうエールを送った。
「私は常々、職員のみなさんには、物事の真実は常に現場にあると申し上げています。現地・現物・現場主義で常に現場で物事を考え、物事を解決していく。現場が動いてこそはじめて、物事は前に進んでいくわけです。みなさんには、ぜひとも現場に飛び込んでいただき、若く瑞々しい感性で様々なことを感じ、それぞれの仕事を前進させる、行動する県庁職員になっていただきたい。県政の守備範囲は、みなさんが考えている以上にフィールドが広く、森羅万象に及びます。ぜひ、職場のみなさんに可愛がってもらい、多くの県民の皆さんの中に飛び込み、多くの企業・団体の皆さんと話をし、多くの情報を得て、みなさんなりのソリューション(解決・回答)を作っていけるように頑張っていただきたいと思います」
山梨知事「ポストコロナの日本をけん引しよう」
山梨県の長崎幸太郎知事(52)は、新型コロナウイルス感染症では「グリーン・ゾーン構想」という独自の対策を実施している。
「グリーン・ゾーン構想」とは徹底した感染症対策を行っている飲食店や宿泊業を県が厳しく審査して認定、その代わり認定証が出た店には自由に営業させるという感染症対策と経済活動を両立させた制度だ。多くのメディアで盛んに取り上げられたこともあって、132人の新規職員を含めた県庁職員を前に長崎知事の挨拶は終始自信満々だった。
話題が、コロナ対策、教育、IT産業、農畜産業、社会福祉、防災、スポーツ...と多岐にわたり、いずれも「山梨よいとこ」の自画自賛ふうの自慢話に終始した。たとえば、コロナ対策ではこんな案配だ。
「(コロナ対策では)東京、大阪といった大都市では足踏みをしていると言わざるを得ない。我が県ではグリーン・ゾーン構想の下、全県総力を挙げた取り組みを実行しています。昨日、全国放送が取材にきました。取材された方の話によると、他の所と違って山梨県は県当局と事業者、県民のみなさんとの信頼関係が驚くほどできていますね、と...。要は、私どもと他県が違う最大のポイントは、山梨県は感染症防止に関して他人ごとではなく、自らリスクを取っている。県民のみなさま、そして県の事業者さんと同じ土俵に立って、同じ仲間として連帯をしながらこの苦難を乗り越えていく。山梨県は、来たるべきポストコロナ、ウイズコロナの時代に向け、トップランナーの一角を占めつつあると思っていただいても、決して言い過ぎではないと私は考えております」
教育問題についても、こんな調子だ。
「本日からいよいよ25人の少人数学級がスタートします。山梨県の教育の最大の特徴、そして最大のプラスのポイントは、やはり全国で最も自己肯定感の高い子供を育てている、ここにあろうかと思います。おそらく将来、山梨の自己肯定感の高さは、必ず全国の教育に関心のある皆様からの注目を受けることは間違いありません。25人の少人数学級は自己肯定感をさらに高め、苦難や厳しい場面に直面しても、必ずや、山梨の子どもたちはこれを乗り越えていけるでしょう。そういう足腰の強い子ども、社会の役に立とうという思いが強い子どもを全国で最も強く育てている山梨の教育の良さを、今後さらに伸ばしていきたいと思います」
ただし、山梨県の子どもは自己肯定感が強いが、肝心の県庁職員に自己肯定感があまり見られないことが、長崎知事の懸念材料になっているようだ。こう叱咤激励したのだった。
「よく県外の方から、山梨にどこかいいところがありますかと聞かれた時に、かなり多くのみなさまが『何もないです』と言われることを耳にいたします。まさか県の職員のみなさまはそういうことはおっしゃらないと確信しておりますが、ひょっとしたら心の内で、ちょっとアレッと思っている方もいるかもしれません。日本で最も自己肯定感の高い子どもを育てている山梨県なので、県全体が自己肯定感を高めていかなければなりません。県外の方から、どこかいいところがないかと聞かれた時には、『何もない』ではなくて、少なくとも10個、『あれもある、これもある、ここもある』と挙げていただきたい。もはや山梨県は、遠慮がちに周囲を見回して状況を伺う時代は終わりました。山梨県は、持てる力を最大限に発揮し、ポストコロナの日本をけん引する存在であるべきだ、それこそが山梨県に課せられた使命であると考えます」
鳥取知事「県民にお願いする前に全職員にコロナ研修」
鳥取県の平井伸治知事(59歳)も、山梨県の長崎知事と同様に新型コロナウイルスの感染防止では「鳥取方式」という対策を打ち出しており、全国的に注目されている。コロナ禍の感染者を徹底的に検査、追跡して封じ込めるというもので、特に変異ウイルスに関しては、陽性者の100%を変異ウイルスの検査に回している。
政府の目標が陽性者の40%を抽出検査に回すことで、東京都や大阪府などの大都市では20%前後しか達成していない現状をみると、画期的な試みだ。
そんな平井知事は、県民にコロナ対策をお願いするには、まず「隗より始めよ」というわけで、107人の新規職員を含めて全県庁職員の「コロナ意識」を変えることを明らかにした。新型コロナに関する知識を担当部局だけでなく、全職員に持ってもらうために全員に研修を行うというのだ。
「4月1日、今日から人心が一新されるので再スタートを切らせていただきたい。新型コロナ対策研修を各所属でやることを義務づけます。すべての所属で新型コロナとはこういうものだと、それと闘う、予防していくためにはこういうことが大切だと。飲食店でもよく話題になるが、この辺がポイントだよとか。また、県庁はこういうことをやっているから、ぜひ動員かかったら協力してよねと。新型コロナ研修としてきめ細かく、所属単位でやっていく。それによって意識を前に向ける必要があると思います」
さらに、こう続けた。
「じつは職員も健康管理の面で不安を持ちながら仕事をしています。私も妻も、よくこれでいいのかと迷います。特に新しく社会人になった新規職員の方々は、いろいろな方と出会ったり、いろんな場所に行ったりせざるを得ないわけですから。そんな不安を解消するために、各所属課に新型コロナ対策健康観察員を任命し配置します。私的なことも含めて、いろいろと心配なことがあるでしょう。ぜひ相談してください。また、食事会は全面禁止しているわけではありません。でも、その食事会はやっぱりまずいよね、こうしなきゃいけないよねと言う人をつくっておかなきゃいけません。新型コロナ対策健康観察員にはそういう役目も担っていただきます」
厚生労働省は職員23人が東京・銀座で深夜まで送別会を開き、感染者まで出したが、鳥取県のように「その食事会はやっぱりまずいよね」と、モノ申す担当者を各課に置いてはどうだろうか。
(福田和郎)