世界デジタル競争力で日本は27位 「遅れている」【まだ間に合うDXの基礎知識】(久原健司)

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   コロナ禍で、テレワークやオンラインで仕事をする企業が増えてきたこともあり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が、注目されています。

   政府もDXを推進するために足かせになってきた「制約」を排除する動きが出始めているといわれていますし、コロナ禍でDXの広がりに加速度がついているようです。

   ITジャーナリストの久原健司さんに、海外のDX事情についてお話を聞きました。

  • 日本のDX事情は……
    日本のDX事情は……
  • 日本のDX事情は……

韓国、UAE、中国... アジア圏でも日本は下位

   スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2020年9月26日に発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」によると、対象の全63か国・地域の中で1位はアメリカ、2位はシンガポール、3位デンマーク、4位スウェーデン、5位が香港で、日本はなんと27位となっています。

   アジア圏でみると、韓国が8位、台湾が11位、UAEが14位、中国が16位、マレーシアが26位で日本よりも上位となっています。

   中国に関しては、特定のIT企業の躍進が突出しているのでDXが進んでいるように見えますが、地域格差が激しいので、16位といった順位になっているのではないか、とみられます。

   このランキングは、政府や企業がどれだけ積極的にデジタル技術を活用しているかを示しており、

(1)知識(新しい技術を開発し理解するうえでのノウハウ)
(2)技術(デジタル技術の開発を可能にする全体的な環境)
(3)将来への準備(デジタル変革を活用するための準備の度合い)

の3つの項目で評価しているということなので、このランキングだけでDXが進んでいるかどうかの判断はできませんが、参考にはなると思います。

   また、IT専門の調査会社IDC Japan株式会社が2020年6月23日に発表した「世界のDXへの支出額に関する予測」によると、企業のDX関連のビジネス推進、製品、組織運営上の支出は継続され、2020年にDXに向けたテクノロジー、サービスに対する全世界の支出額は前年比で10.4%増加し、1兆3000億円を超えると予測しています。

   参考リンク「新型コロナウイルスの試練にも関わらず2020年もデジタルトランスフォーメーションの成長は続く見通し」(IDC Japan株式会社 2020年6月23日付)

   2020年に特に支出額が多いケースとして「自律型オペレーション」「ロボティクス製造」「製造上の根本原因の把握」が挙げられています。その他、教育におけるデジタル技術を活用した視覚化や、保険業におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した請求処理の自動化、専門サービスの設計監理の拡張など、さまざまな分野でDX関連の支出が増加しているようです。

GAFAがけん引する米国のDX

   DXで注目されている地域・国をいくつかご紹介します。

(1)アメリカ
   全世界のDX関連の総支出額の約3分の1をアメリカが支出しているとされています。みなさん、ご存知のGAFA(「Google」「Amazon」「Facebook」「Apple」)が、DXをけん引しています。
   世界的にみても影響力は年々増しており、GAFAは世界の時価総額ランキングの上位に占めています。
   2020年10月末時点での世界時価総額ランキングではアップルが1位、アマゾンが3位、アルファベット(Googleの親会社)が4位、フェイスブックが9位となっています。
   このことからもわかるように、アメリカはDXが最も進んでいる国といっても過言ではないと考えます。

(2)中国
   中国では、Eコマースが注目されています。経済産業省が2020年7月に公開した報告によると、2019年のBtoCのEC市場規模は、中国が1兆9348億USドル(約204兆円)で、第2位のアメリカの3倍以上と、圧倒的に世界1位の市場を有しています。
   2018年から1.2倍も伸びており、今後は中国の農村部のEC利用が本格化すると考えられているため、さらに拡大すると考えられます。 これはただ人数が多いだけではなく、ライブコマースといった新しい販売方法でも積極的に取り組む姿勢から来るものと考えられます。

(3)ヨーロッパ
   アメリカや中国がIT関連については注目されていますが、ヨーロッパの中でも北欧はITが非常に進んでいます。SkypeやSpotifyなど、ふだんから多く使われているアプリも北欧生まれのものになります。
   北欧は、バイオや IT など先端産業分野において、また分野を問わず、EU拡大に伴い企業の欧州事業体制の見直しが進む中で、外国企業の投資先・提携先として新たな役割を担うようになっています。スウェーデンではキャッシュレス化、フィンランドではMaaS(Mobility as a Service)の動向、そしてエストニアでは電子政府、さまざまな新しい動きを見せています。

(4)東南アジア
   ロイター誌は、2020年に東南アジアのデジタル経済の市場規模が2025年に3000億ドルに拡大するとした予測を公表しています。
   特にインドネシアはEC市場、配車市場、旅行サイト予約などにおいて急拡大していくと考えられています。
   また、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済担当相が2020年、テレビ会議を開き、デジタル技術で既存制度を変革するDXの推進を柱とする行動計画をまとめたことで、これから東南アジアもどんどん成長していくことになると思われます。

マクドナドのDX化を図る6つのテーマ

   日本でも大人気のマクドナルドは、2017年に6つのテーマを掲げ、これに基づいてDX化を図るVelocity Growth Planと呼ばれる計画を進めています。

   その6つのテーマは

Retain(既存顧客の保持)
Regain(失った顧客の再獲得)
Convert(顧客のリピート顧客化)
Digital(顧客体験のデジタル化)
Delivery(マクドナルドでの体験をより多くの顧客に)
Experience of the Future in the U.S. (テクノロジーの力で未来の体験を顧客に)

です。

   たとえば、2019年にマクドナルドは過去20年で最大となる推定300億円でAIのスタートアップを買収し、顧客の嗜好や時間・天候などに応じて、AIがパーソナライズしてメニューを提供するというドライブスルーを、アメリカとオーストラリアのほぼすべてのドライブスルーの店舗に設置しました。

   顧客の利便性を向上させることはもちろんのこと、ドライブスルーを訪れる顧客のデータを分析することで、データを資産化し活用しています。

   さらに、さまざまなアクセントなどを認識し、対話ベースで自動注文できる技術を持つ別の音声認識のスタートアップを買収し、将来的にはモバイルやキャッシャーキオスクでの注文に活用しようとしています。

   エストニアは、世界一のIT国家と言っても過言ではないほど、行政サービスにおける電子化が進んでいます。有名なのが「e-Estonia(イーエストニア)」と呼ばれる電子政府化の取り組みです。

   エストニアでは国民全員にIDが割り当てられ、ほぼすべての行政サービスの申し込みや手続きを24時間365日利用することが可能です。たとえば、住民票の変更はパソコンやスマートフォンからアクセスして済ませることはもちろん、面倒な確定申告についても、1年間の全取引が電子化されているので、数分から15分程度で終わります。

   さらに投票もオンラインで、世界中のどこからでも簡単にできてしまい、内閣の議事録も公開されています。交通違反をしても、その場で罰金をスマホで支払うといった具合で、レストランもお店も電子化されているので現金の要らない社会が実現されています。

   エストニアは、異なる省庁間でもシームレスに連携しているため、医療機関、教育機関、警察や各官庁それぞれにある情報を一つのIDで管理されることで横断的なデータの共有や活用を実現することで、国家が積極的にDXを進めています。

シンガポールは「スマート国家」で住みやすく

シンガポールはDXで「スマート国家」構想を打ち出した
シンガポールはDXで「スマート国家」構想を打ち出した

   シンガポールは2014年に「スマート国家(Smart Nation)」構想を打ち出し、デジタル技術を活用して住みやすい社会をつくるという理想を掲げました。その実現に向けて、国土に関する情報のデジタル化と、各種センサーの整備を進めています。

   シンガポール全土の地形情報や建築物、さらには交通機関などの社会インフラに関する情報までを統合し、バーチャル空間上に3Dモデルとして再現し、さらにその3Dモデルに各種のリアルタイムデータ(交通情報、車・ヒトの位置情報など)を統合し、「都市のデジタルツイン」を実現しようとしています。

   中国のEV(電気自動車)メーカーのNIOは「カギを渡してからが仕事」と明言し、クルマを購入した後のアフターサービスを徹底的に追及しています。年1万4800元(23万円相当)を支払うと、点検・修理・メンテナンスサービスや、洗車サービス、空港での駐車サービス、運転代行サービス、など数多くの充実したアフターサービスを受けることができます。

   また、点検などでクルマを引き渡すことが必要な場合は、スタッフが自宅までクルマを取りに来てくれ、終了したら家まで戻してくれるのです。

   さらに、電気自動車(EV)で面倒なクルマの充電を、年1万800元(17万円相当)もしくは月980元(1.5万円相当)を支払うことで、スタッフが家までクルマを取りに来て充電して戻してくれるというサービスも受けられます。また、一定量までは充電スタンドでの充電が無料になります。

   これだけではなく「NIO HOUSE」というラウンジやアプリを使ってさまざまな施策を行いながらDXを進めています。

   今回、こうやって海外の事例をみてみると、やはり日本のDXはまだまだ遅れているなと感じられたのではないでしょうか――。次回は、日本ではDXが進まない理由について、お話したいと思います。(久原健司)

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