新型コロナウイルスの感染拡大が全国で止まらない。大阪府では2021年3月31日、新規感染者数が599人と、第3波のピークとほぼ同じ状況に達した。
吉村洋文大阪府知事は、緊急事態宣言が出されていなくても集中的な対策が可能になる「まん延防止等重点措置」(通称:マンボウ)の適用を政府に求め、菅義偉首相も4月1日に認める。マンボウの適用は全国初だが、宮城、沖縄、兵庫、山形などにも追随する動きがある。
そんななか、福島、栃木、群馬で「密」を生み出している聖火リレーに批判が殺到している。中止か、続行か――。
五輪組織委員会側は、
「県民の健康を預かる知事にご判断をいただきたい」
と、通過する都道府県の知事に下駄を預けた形だが、最後まで続けられるのか。
聖火リレーは企業のための大音響のパレードだった
新型コロナウイルスの感染が広がるなか、政府と東京五輪組織委員会は聖火リレーを強行した。聖火リレーは3月31日現在、福島、栃木、群馬の3県目に入っているが、各地で観客が押し寄せる「密」の状態が起こっている。
そんな聖火リレーが、そもそもスポンサー企業のために行われている実態を、東京新聞(3月31日付)「本音のコラム:隠されたパレード」の中で、文芸評論家の斎藤美奈子さんが、こう書いている。
斎藤さんは、テレビのニュース映像ではなかなかお目にかかれない聖火リレーの一面を、インターネット動画で見て驚いたのだった。
「迂闊(うかつ)だった。聖火リレーがこんな大パレードだったとは。『ズチャ、ズチャ、ズチャ』と大音響の音楽を響かせ、やってきたのは大型トラック。荷台の上のDJ(ディスク・ジョッキー)が大声で叫ぶ。『福島のみなさん、1年待ちました』『踊って楽しみましょう』。コカ・コーラ、日本生命、NTTといった上位スポンサーの宣伝トラックに先導されて、だいぶ後からやってきた聖火ランナーの姿はかき消されんばかり。7月23日までの約4か月間、この騒々しい一団が全国各地を次々と襲うのだ」
斎藤さんは、「国民に花見の自粛まで求めているのに何なのこれは」と、疑問を投げかける。
「そのうえリレーの実態は国民の目から隠されている。五輪公式サイトもニュース映像もランナーのアップしか映さない。企業中心のイベントであることがバレたら、批判が殺到するとわかっているのかもしれない。テレビ局も大手新聞社も五輪のスポンサーである。要するにみんな『ぐる』なのだ。五輪の本番はまだ先だ。だが五輪翼賛報道はもう始まっている」
ちなみに、東京五輪のスポンサー企業には「ビッグ6(シックス)」と呼ばれる6社の大手新聞が名を連なる。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞、北海道新聞だ。そして、それぞれの新聞社には系列のテレビ局がある。朝日新聞=テレビ朝日、読売新聞=日本テレビ、毎日新聞=TBS、日本経済新聞=テレビ東京、産経新聞=フジテレビ、北海道新聞=北海道放送(HBC)といった案配だ。斎藤さんはこのことを指摘しているようだ。
毎日新聞(3月31日付)の「コラム:水説 町で聖火は楽じゃない」でも古賀攻・専門編集委員が聖火リレーの「違和感」をこう書いた。
「3県目に入った聖火リレーは商業五輪を地で行っている。スポンサー企業の派手なコンボイ車列が大音量を響かせて通り過ぎた後に、ふとリレー走者が現れる。主客が入れ替わったようなその映像を見て、米ロック歌手ブルース・スプリングスティーンの初期の代表曲『町で聖者は楽じゃない(It's hard to be a saint in the city)』が頭に浮かんだ」
そして、古賀記者はこう続ける。
「猥雑(わいざつ)さにあふれた都会を駆け抜ける歌のモチーフと、聖火リレーの姿が重なる。舞台は理念の花園ではなく、生臭い現実世界。聖者も聖火も楽じゃない。袖振り合うも多生の縁という。たまたまの隣り合わせでも不思議な絆があるとの教えだが、沿道の見物人同士で肩が触れ合う『密集』はNG。その区間のリレー中止が検討される。盛り上げたいけど、喜ばれ過ぎても困るという相反性を律する掟(おきて)だ」