東京大総長「絵文字で共感力を養おう」
慶應義塾大学の長谷山彰塾長も、一見、利己主義に見える行動が自分と周囲の人々を救うことがあるのだという話を、東日本大震災の津波を通じて語った。
「『津波てんでんこ』という言葉が、東北の三陸海岸地方に伝わっています。『てんでんこ』とは、『各自』『めいめい』という意味で、『津波が来たら肉親にも構わずに、各自てんでばらばらに一人で高台へと逃げろ』ということです。この言葉は、1990年に岩手県で初めて開かれた全国沿岸市町村津波サミットの標語に選ばれて、広まりました。当時、『他人を救おうとせず、一人だけ逃げるのは利己主義だ』という批判がありました。しかし、現実には家族を探し回っているうちに津波に巻き込まれてしまいます。そんな悲しいことが何度もあったことを踏まえ、日ごろから住民同士で信頼関係を醸成したうえで、決めたことなのです」
長谷山さんは、一人だけいち早く高台に逃げることが、他の人々にも避難を促すことにつながる、また、危機に遭遇した時に、指示や命令がなくてもそれぞれが自らの判断で適切に行動することが、結局、みんなが助かることにつながるのだ、と強調した。それは、社会に出ても、上司の指示・命令を待たずに自分で考え、決断することの大切さにつながるとも語った。
「このことを考えると、福沢諭吉先生の『独立自尊』とは、決して『唯我独尊』、自分一人がよければいいということではなく、自らが自立し、自らを大切にすることが、他人を尊重し、他人の尊厳を守るという気持ちが生まれてくることになるのです」
「共感」の大切さを訴える人も多かった。
東京大学の五神真(ごのかみ・まこと)総長は、スマートフォンで使われる「絵文字」を取り上げて「共感力」の高い人になってほしいと強調した。
「みなさんはスマホでの日常のやりとりで絵文字を使いこなしているのではないでしょうか。微妙なニュアンスを伝えるのにも便利なこの新しい文字は、1999年に日本で開発され、絵文字が切り開く可能性に世界が注目しています。『emoji』という名で世界各国でも用いられ、2016年にはニューヨーク近代美術館に永久収蔵されています。その総数は3000字以上と言われ、常用漢字を超えています。言語学や情報学の真面目な研究対象にもなっています」
サイバー空間では生の感情がぶつかり合う炎上や、姿も顔も見せないままでのヘイトスピーチや排除の暴力が目立っているが、絵文字は豊かな感情を表現する「表感文字」である。
五神さんは、
「言葉本来が持つ触れあいの共感を復活させるものとなるのかもしれません。大いに活用しましょう」
と語ったのだった。
(福田和郎)