15歳から始める「投資」の授業 親の常識は通用しない

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   2022年度からの新学習指導要領で、高校の家庭科で資産形成の指導が組み込まれ、株式や債券、投資信託などが授業でふれられることになった。

   本書「15歳から学ぶお金の教養 先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか ?」(ダイヤモンド社)は、それもあって、「お金のプロ」が高校生のために投資の仕組みをわかりやすく解説した一冊。

   といっても、その内容は株式投資に特化したものではなく、「価値」と「価格」の違いやお金の仕組みなど、社会の動かしている経済の本質の数々がテーマだ。いよいよ始まる投資教育に戸惑う現場の先生たちをはじめ、幅広い世代の大人も、一読すれば多くの気づきを得られる内容になっている。

「15歳から学ぶお金の教養 先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?」(奥野一成著)ダイヤモンド社
  • 改訂された学習指導要領で「投資」が2022年度から高校の授業に組み込まれる(写真は東京証券取引所)
    改訂された学習指導要領で「投資」が2022年度から高校の授業に組み込まれる(写真は東京証券取引所)
  • 改訂された学習指導要領で「投資」が2022年度から高校の授業に組み込まれる(写真は東京証券取引所)

高校生よ「労働者2.0」を目指せ!

   著者の「お金のプロ」、奥野一成さんは投資を助言する農林中金バリューインベストメンツ株式会社で常務取締役兼最高投資責任者(CIO)を務めるファンドマネージャー。

   奥野さんは投資と長く付き合うなかで得た知見を、前著「ビジネスエリートになるための 教養としての投資」(ダイヤモンド社)で披露。未来を切り拓くためには「投資家の思想」を持つことが大切と主張した。

   従来型の労働者の思想だけの人を「労働者1.0」とし、投資家・資本家の考え方を採り入れ、自ら問題を発見して行動する「労働者2.0」とバージョンアップして定義。日本人はそれを目指すべきだと説いた。

   本書では、高校生に向けて、その「労働者2.0」を目指せと励まし、時間を投資して自分を成長させよなど、熱いメッセージを随所に込めた。タイトルにある、「お金持ち」は身も心も豊かである投資家、資本家のことであり、「労働者2.0」のことでもある。

   「親御さんの言うことを鵜呑みにしないでください」――。冒頭のメッセージは衝撃的だ。

「ご両親の時代の常識は今では、もう通用しないのです。この20年ほどで、世の中は大きく変わってしまったのです」

   本書の大きなテーマの一つである「投資」の視点も変化している。かつては「機能的効用」だけに価値が見出されたが、現代では価値観が多様化し、「意味的効用」と呼ばれる価値が重視されているという。

   その好例がダイソンやアップルの製品。ダイソンの扇風機でいえば、送風という扇風機に欠かせない働きが機能的効用。羽根がないとう近未来的デザインが意味的効用で、前者の評価は絶対的だが、後者はそのことに価値を見出すかどうかは人それぞれだ。

   しかし、モノがあふれる時代になって、機能的な効用よりも意味的な効用が重視されるようになり、価値も大きな部分を占めるようになっている。ダイソンの羽根のない扇風機の「スマートさ」やアップルのiPhoneが醸し出す「カッコよさ」がそれだ。

   だから、それらに「ハマる」人もいれば、まったく価値を感じない人もいる。奥野さんはこう言う。

「このことは、みなさんが大人になって働く時にも重要なヒントになります。機能的効用は誰がどのように評価しようとも大きな差がつかいないのであれば、意味的効用を極めるように働いたほうが、たくさんのお金をもらえる可能性が高いということです」

   奥野さんは、現代にさまざまあるモノの価値について、ふだんから機能的効用と意味的効用に「分解して考える」ことを推奨。そのモノから自分が受け取る効用が何なのかを具体的に考えるクセをつけることで、投資感が養えるからだ。

毎日のあらゆる物事は投資

   それでは、投資というのは一体何なのか――。それは「将来的に多くのお金を得る手段の一つ」。とはいえ、この説明で高校生はピンと来ないかもしれない。奥野さんは、こう言い換える。

「みなさんは、ふだん当たり前のように投資に接しています。というか、みなさんの毎日のあらゆる物事は投資であると言っても過言ではありません」

   ある日の放課後に友達からカラオケの誘いを受けたが断って、部活の卓球の練習に行くことも投資だという。誘いに心が動いたが、それを振り切って断り練習に時間を費やすことにしたのは、3か月後の大会で入賞を目指すため。希望どおりに入賞ができるかどうかはともかく、卓球に打ち込むことで何か貴重なものを得ようとしたことは立派な投資だという。

   具体的には、こうだ。時給1000円のアルバイトを2時間行い得た2000円で友達と2時間食事をするという選択肢と、4時間を英検1級合格のために勉強するという選択肢がある場合を想定する。

   バイトと食事の場合は4時間限りだが、勉強の場合は目的を達すれば、その後のバイト単価が英語を使える仕事を選ぶことで3倍に跳ね上がる可能性がある。「バイトと友達との食事」を選ぶなら、常に後者のような可能性があることを考慮したうえで選ぶべきだと、奥野さんは言う。

「要するにすべては『選択』なのです。広い意味での投資とは『現在の資産(時間、才能、お金)を投下することで、将来的により大きな資産(時間、才能、お金)を得ようとすること』です。今、我慢することで、将来、より大きな何かを得ようとすること、と言い換えてもいいかもしれません。
現在の保有している資産(時間、才能、お金)を何に投下するのか? 自分自身に投下することを『自己投資』といい、自分以外の何かに投下する手法の代表的なものが、私が提唱する『長期株式投資』といえるでしょう」

構造的に強靭な人間になる

   奥野さんの投資家としての仕事は「将来有望な企業を探して、その企業が発行している株式を保有」すること。「株式市場に参加している人たちの『気持ち』で決まっている」という株価を予測して株式を売買するのは投機であり、奥野さんらの仕事である投資とは異なる。

   顧客からお金を預かり、そのお金を増やすための運用哲学は「売らなくて良い会社しか買わない」という投資活動だ。長期的に保有して複利による運用益を目指す。「短期のトレーダーのように、1日に何度も売り買いを繰り返すような真似は絶対にしません」と、きっぱり言う。

   奥野さんの投資対象は「構造的に強靭な企業」。構造的に強靭な企業であるためには3つの要素を満たす必要があり、それは「高い付加価値」「圧倒的な競争優位性」「長期的な潮流」だ。

(1)高い付加価値は、支持される意味的効用を持っていることであり、消費者が抱える問題解決策を提供できること。
(2)圧倒的な競争優位性は、新規参入を試みる他社に対し高い「参入障壁」を築いていること。
(3)長期的潮流は、その方向に進んだら簡単に反転させることができない事象のこと。

   たとえば、農林中金バリューインベストメンツの「農林中金〈パートナーズ〉長期厳選投資 おおぶね」は、奥野さんが「3つの要素」である構造的に強靭な企業の株式を集めた個人向け投資信託(ファンド)だ。2017年の設定を以来、着実に運用成果を出しており、現在は3シリーズを展開している。

   奥野さんは、構造的に強靭な企業を集めたファンドをつくる中で、一つ気づいたことがあるという。それは「構造的に強靭な企業の条件は、人にも当てはまるということ」だ。

「組織の時代は終わり、個人の時代へとシフトしています。時代の変化は激しく、変化のスピードはますます加速していくでしょう。さらにこれからの時代は、AIが私たちの生活にどんどん浸透していきます。それによって、今までは人がやっていた仕事の多くが、AIに置き換えられるようになります。そんな激しい時代でも常に必要とされるのは、構造的に強靭な人間だと思うのです」

   構造的に強靭な人間になるために、満たすべき要素もまた3つ。「高い付加価値」「圧倒的な競争優位性」「長期的な潮流」であると示している。

「15歳から学ぶお金の教養 先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?」
奥野一成著
ダイヤモンド社
1500円(税別)

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