全社員、母国語以外の使用を全面禁止する――。AI自動翻訳の開発・運営を手がけるロゼッタ(東京都千代田区)は、グループ会社の全社員に対し「英語禁止令」を発令したと、2021年3月1日に発表した。
「英語禁止令」とは、勤務中に日本人社員が英語を話すこと、外国人社員が日本語を話すことを禁止するというもの。つまり母国語しか使ってはいけないということだ。外国語はネイティブと同様レベル、かつ代表の承認を得た人のみ、使用できることになっている。
では、外国人社員や外部とのやり取りは、いったいどのように......。発表資料によれば、オンライン上の「言語フリー・スペース」で行うというが、実際はどのような感じなのだろうか。
英語が話せないことがコンプレックスに...
会社ウォッチ編集部は3月18日、ロゼッタの子会社で「言語フリー・スペース」を提供するMatrix(東京都新宿区)の代表、五石順一(ごいし・じゅんいち)さんを取材。実際に言語フリー・スペースを体験した。
五石さんによれば、「英語禁止令」はロゼッタの起業ミッションに基づいているという。
「ロゼッタの起業ミッションは『日本を英語のハンディキャップから解放する』です。2004年の創業から17年経って、ようやく実現できました」
ロゼッタグループでは社内外問わず、外国人と仕事をする機会が多い。その分、実際にハンデを感じる場面もあるようで、
「ロゼッタのほとんどの社員が、英語を話せないことをコンプレックスに思っています。仕事で使えるほど、英語力に自信がないんですよね。たとえば、VRトリップという旅行の事業では海外のホストと打ち合わせをしますが、ある社員にその事業のマネージャーになってほしいとお願いすると、『私は英語が喋れないからなれません』と言われました」
と、五石さんは説明する。
「英語が話せないなら、通訳をつければいいんです。お客さんが喜ぶようなサービスを提供できるかというのが一番大事で、英語が話せるかどうかは関係ないです。
でも、今の日本では、会社によっては、英語が話せなければ出世できない、採用もされないというような状況になっています。そのため弊社の社員の中にもコンプレックスが生まれるようです」
グループ全体の社員300人のうち、条件をクリアして外国語を話して良いことになっているのは7人ほど。大体数の社員が「言語フリー・スペース」でコミュニケーションをとっていることになる。
言語フリー・スペースを体験!
記者も、五石さんやロゼッタグループの外国人社員と「言語フリー・スペース」を体験してみた。
Zoomのように指定されたURLをクリックすると、会話のルームに入ることができる。ここでは自分や相手が話した言葉が設定した言語に変換し、字幕として表示される。
多少のタイムラグはあるものの、ほぼ同時に翻訳されるため、外国人社員との会話も臆することなくできてしまう。会話の内容に集中できるので、英語が苦手な社員はより仕事がしやすくなったように思える。
ただし、滑舌には要注意。音声がうまく認識されないと、まったく異なる翻訳になるためだ。
ロゼッタグループではリモートワークを導入しているため、基本的に会議などは言語フリー・スペースが使われる。
自らも英語力に自信がないという広報担当の工藤千明(くどう・ちあき)さんは、
「自分の話しやすい言語で話すことで、コミュニケーションの齟齬が少なくなったかと思います」
と話している。
ロゼッタグループでは言語フリー・スペースを使用することでコミュニケーションが円滑になったようだが、デメリットはないのか。五石さんに聞いてみると、
「ありませんね。強いて言うなら、これまで外国語を上手に話していた人たちが悲しい思いをしているかもしれません。語学学習にものすごい時間をかけてきた人たちなので。それが全部ムダになった瞬間ですからね」
と推察する。
課題としては、音声が認識されない場合があることと、通信環境によって翻訳速度に個人差があること。コツとしてはアナウンサーのように、はっきり発音することだという。
楽天やユニクロなどの大手企業では英語を社内公用語としているのに対して、ロゼッタの「英語禁止令」は真逆の方針ともいえるが、五石さんに聞いてみると、
「楽天やユニクロがやってることは、革新的で勇気があることだと思ってますね。グローバルな企業にとって、言語が話せないというのは非常に大きな問題です。ただ、それは言語フリー・スペースのようなテクノロジーがなければの話ですね」
と話している。
五石さんによれば、言語フリー・スペースは5月以降に一般リリースを考えているそうだ。