一番の問題は「中国リスク」「国内回帰」では済まないLINEの「いばらの道」!?

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   8600万人が利用する無料通信アプリ「LINE(ライン)」で、利用者の個人情報について、中国にある現地法人の技術者がアクセスできる状態だったことなどが発覚し、大きな問題になっている。

   LINEはプライバシーポリシーでそうした状況を十分説明しておらず、対応に不備があったと認め、政府の個人情報保護委員会に報告するとともに、調査のための第三者委員会を立ち上げ、運用の改善に着手した。今のところ利用者の大量離反といった影響は出ていないというが、技術開発やコスト面での懸念もあり、問題はまだまだ尾を引きそうだ。

  • LINEは大丈夫なのか?(写真はイメージ)
    LINEは大丈夫なのか?(写真はイメージ)
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厚労省、内閣府も利用を停止

   この問題は朝日新聞が2021年3月17日朝刊で「LINE個人情報保護 不備」と1面トップで報じ、各メディアも大きく報道し、国会でも取り上げられた。これまでに明らかになったのは中国と韓国に関わること。一番問題にされたのは、情報管理をめぐる「中国リスク」だ。

   中国では、民間企業や個人に国の情報活動への協力を義務付ける国家情報法が2017年に施行された。米トランプ前政権が「プライバシーの脅威」「安全保障上の脅威」を理由に華為技術(ファーウェイ)などの中国ハイテク企業を米国から締め出そうとしたのも、根拠はこの法律だ。日本でも、利用者情報が中国政府に渡り、悪用されるリスクは否定できない状況になったのは確かだ。

   LINEの出沢剛社長は3月23日の会見で、

「中国での開発は長い間、続けていた。潮目の変化であるとか、我々として見落としていたというのが偽らざるところ」

と釈明したが、米中が激しくやり合っているご時世に、「中国リスク」への注意を怠ったのは「見落とした」で済む問題ではないだろう。

   LINEはSNSを中心に通販やスマホ決済など幅広いサービスを提供する日本を代表する「プラットフォーマー」に成長。日本人の7割にも達する利用者の多さが強みで、政府や多くの自治体と連携し、さまざまな情報伝達などに利用されており、公共基盤になりつつある。

   コロナ禍で、住民の健康状態に合わせた情報を伝達のアプリを開発し、30以上の都道府県が導入しているほか、厚生労働省は感染拡大防止のため海外から帰国した人に健康状態をLINEで報告するよう求めてきた。ワクチン接種の予約手続きなどにLINEを利用する予定の自治体も多い。

   厚生労働省が自殺対策の相談業務も含め、当面はLINEの利用を停止し、内閣府もラインで防災情報を提供する公式アカウント「内閣府防災」の利用をやめ、自治体でも同様の停止措置が相次いでいる。情報管理をめぐる「中国リスク」が大きな理由だ。

「タイムライン」「オープンチャット」の監視、中国に再委託

   では、改めて、LINEがどんなことをしていたのか、確認しておこう。

   当初から指摘されたのが、中国・上海にあるLINEの孫会社「LINEデジタルテクノロジー上海」の中国人スタッフ4人が2018年8月以降、日本のサーバーに保管される「トーク」と呼ばれる書き込みのほか、利用者の名前、電話番号、メールアドレス、LINE IDなどを閲覧できる状態だったこと。サービスで使う人工知能(AI)などの開発などの業務で必要な場合に、データを使えるようにしていたといい、外部からの指摘を受けて2021年2月24日にアクセスできなくするまで、少なくとも32回、日本のサーバーにアクセスがあった。

   さらに、20年1月から「LINE」上の掲示板の役割を担う「タイムライン」や「オープンチャット」などのサービスで、利用者から不適切と通報された書き込みなどの監視業務が、大連にある中国法人に再委託されていた。

   これについてLINEは、今後、日本国内の利用者情報を中国で扱う作業はしないとしている。

   韓国でのデータ保管も明らかになった。対話アプリ上で投稿された画像や動画、キャッシュレス決済「LINEペイ」の決済情報などのデータを韓国のサーバーで保管してきた。

   これについては、個人間のトークを6月までに、政府や自治体などの公式アカウントのトークは8月までに、それぞれ日本国内にデータを移転、LINEペイ関係も9月までに国内に移す方針を示している。

   個人情報保護法は、個人情報を外国に移転したり、外国からアクセスを可能にしたりする場合には利用者の同意を得るよう定めている。LINEの規約は「お客様のお住まいの国や地域と同等の個人データ保護法制を持たない第三国にパーソナルデータを移転することがある」と書かれていたが、国名を明示していなかった。

   現行法では直ちに違反にはならないが、20年6月に成立した改正個人情報保護法は原則として移転先の国名などを明記するよう求めており、改正法が2年以内に施行されることを考えると、現行法に抵触しなければいいというのは通らない。

   この点についてLINEの出沢剛社長は3月23日の会見で、「法的にどうこうではなく、ユーザーのわかりやすさ、感覚として『気持ち悪い』という点への配慮が欠けていた」と述べ、近く規約を改め、データ移転先の国名と目的を明記するとした。

IT、AI技術者の争奪戦に日本は勝てるのか?

   こうした対応は当然だが、何でも国内回帰すればいいというかといえば、そう単純な話ではない。

   IT、とりわけこれからの「主戦場」になるAIなど最先端の分野では、GAFAと呼ばれる米巨大ITなどとのあいだで技術者の奪い合いになっており、「日本国内だけでの開発では勝てなくなる」(業界関係者)というのが常識。LINEが中国で技術開発を含む業務をしていたのも、「日本だけでは十分な人材が確保できなかった」(LINE関係者)ためという。

   さらに、韓国のサーバーに情報を置いていたのは、サーバー構築や維持費で韓国のほうが安上がりだったという事情がある。特に日本の電力料金の高さは国際競争では大きなハンディだ。

   グローバル企業、公共基盤として技術的、コスト的に競争力を維持しつつ、プライバシーにも万全を期す―― 言うは易く行うは難い、いばらの道がLINEの前に続いている。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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