昔読んだ本が今につながる
――経営の参考にはどんな本が挙げられますか。
満岡さん「二十数年前に読んだ本が今、『なるほどね』と思い出すことがあるんです。二冊挙げます。一冊はフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(三笠書房、1992年)です。当時はソ連が崩壊し、民主主義が完全勝利したと理解されましたが、今、格差社会とか大きな課題が叫ばれています。終わりはない、と実感します。
もう一冊は環境活動家レスター・ブラウンの『地球白書 持続可能な社会をめざして』(福武書店、1986年)など一連の著作です。立場上、速いことが求められる航空機エンジンは世の中で排気ガスを最も多く排出する機関の一つです。これからは大変になるぞ、と覚悟するこの頃です」
「『ああいう本が出ていたなあ』と頭の中に埋もれていたことが、今になり、菅首相が発表した『2050年にカーボンニュートラル実現』とか、現実の政策課題になりつつあります。石炭ボイラーが当社の主力商品の一つですが、本業の継続性が重要です。社長交代前の2019年度に中期経営計画を発表しましたが、この中で『脱二酸化炭素』を明確に打ち出しました。2035年にはお客様の二酸化炭素の排出量を半減するという目標です。
菅首相が明確にメッセージを出されたので、今後産業界でも課題解決のための弾の数がどんどん増えるでしょう。さまざまな分野の専門家がいろいろな対策のバリエーションを考えるでしょう。解は一つではなく、山のような組み合わせを採用しながら、高い目標に向けてチャレンジしていくことになります」
――満岡さんは航空の世界とかかわりが深かったのですが、印象に残る言葉はありますか。
満岡さん「航空は重い機体に、みなさんを乗せて空を飛ばすことですが、ルールの作り方の基本は『Practically Feasible(プラクティカリィ・フィージブル)』です。安全性の確保はもちろん重視しますが、完全を求めすぎると重たすぎて飛べません。実装可能性を追求しながら具現化するという意味です。日本人の感覚にはない、手引書にもないものでした。 たとえば、航空機は2大メーカー、エアバスとボーイングがあります。航空当局の要求は一つですが、それぞれ自社で要求を満たすための設計コンセプトを作り、自社で試験データなりも蓄積してパッケージにしています。少し特異な世界でした」