東京オリンピック・パラリンピックの競技会場が数多く立地する東京・湾岸エリア。その一角を占める豊洲地区に日本を代表する機械メーカー、株式会社IHIがある。連結売上高1兆3865億円(2020年3月期)、連結対象人員2万8964人の巨大企業だ。
石川島播磨重工業以来の工場跡地は再開発され、今では高層のオフィスビルやタワーマンションが立ち並ぶ。IHI会長の満岡次郎(みつおか・つぎお)さんに聞いた。
本を読む時間がなかったイギリス時代
――学生時代の生活や入社まもなくの頃の話をお聞かせください。
満岡次郎さん「東京大学工学部で機械工学を学び、修士を出ました。熱と流体が専門です。学生時代は欧米の技術書や文献ばかりを読んでいました。1980年に入社して、航空機エンジンの開発に従事しました。すると、それまで学んだことは現実の設計プロセスの前で吹っ飛びましたね。
入社まもなく航空機エンジン開発の海外プロジェクトにかかわり、イギリスに数年間、駐在しました。その間は忙しくて、ほぼ本を読むことができませんでした。5か国による国際共同開発プロジェクトに日本として初めて参加したのですが、航空はすべて欧米がルールや文化を支配している世界でした。戦前は、日本も3本指に入っていましたが、戦後の7年間は空白期間を余儀なくされ、一からのスタート。すべてにおいて強い上から目線を感じました。でも、かつての『大英帝国』は、やさしく丁寧に、一から十まで教えてくれたことに感謝しています」
――それは1983年に始まった日、英、米、独、伊の5か国による民間機用エンジン(V2500)の開発をめざしたインターナショナル・エアロエンジンズ社のことですね。
満岡さん「はい。2000年以降、環境性が重視されるようになると、2割以上燃費がよいとのことで、エアバス320に搭載されて、倍々ゲームで売れて世界のベストセラーになりました。コロナ禍以前は当社の利益の約7割を航空機部門が生み出すように育った事業です」
――イギリスからの帰国後、読書スタイルは変わりましたか。
満岡さん「1988年に帰国し、東京都三鷹市の社宅に入りました。すぐ近くに市立図書館があり、自宅の本棚のつもりでよく利用しました。興味を持つままに、いろいろな分野の本を乱読しました。週末に数冊借りて夜遅くまで読むことも。まだ若かった。30代でしたからね。この年になると夜は読めません(笑)」