トルコのエルドアン大統領は2021年3月20日、中央銀行総裁のアーバル氏を解任したと発表しました。アーバル氏は2020年11月に就任したばかりですが、これまでインフレ対策として金融引き締めを推進。政策金利を10.25%から19%へと引き上げ、トルコリラ安定に尽力してきました。
その手腕は金融市場で高く評価され、トルコリラは安値12円前後から15.25円前後へと25%以上上昇し、安定していました。ところが......。
2年で3人もの総裁を馘首した
エルドアン大統領は、すべてを台無しにしました。やはり金融引き締め路線を続けるアーバル氏に我慢できなかったのでしょう。彼はこの2年で3人の中央銀行総裁を馘首したことになりますが、いくらなんでも多すぎです。
アーバル氏の後任はエコノミストのシャハプ・カブジュオール氏。今年2月に「中銀は高金利政策を推進すべきでない」とする論文を発表していたとのことです。
アーバル氏がトルコ中銀総裁に就任する際、エルドアン大統領は「中央銀行は物価安定のための政策を決定する義務がある」と発言。これまで金融緩和にこだわっていた考えを控え、アーバル氏の引き締め路線を後押ししましたが、それがわずか5か月も持たなかったとなると、エルドアン大統領の考えに忠実な人間でなければ、中央銀行総裁は務まらないということでしょう。
結局、トルコリラの最大のリスクは、エルドアン大統領自身なのです。
トルコリラを買うのはやめたほうがいい
トルコリラの今後の展開はどうなるのでしょう――。
アーバル氏の、通貨価値を守る引き締め路線が否定された以上、後任のカブジュオール新総裁は段階的に金融緩和を進めることになりそうです。そうなると、当然トルコリラの値段は下がっていきます。1トルコリラ=12円前後から15.25円まで戻したのですが、また12円方向に逆戻りするでしょう。
しかも、12円で落ち着くかどうかわかりません。今回の中銀総裁の交代で、多くの投資家は、トルコへの投資に伴うリスクを実感したはずです。エルドアン大統領自身が招いた暴挙のツケは、簡単には終わらないでしょう。
トルコは経常収支が常に赤字の国。しかも、通貨防衛のカギとなる外貨準備が極端に少ないのです。為替スワップの片側だけを評価するやり方で、実際の外貨準備の金額を多く見せているとの噂もあります。
経常収支が赤字で外貨準備の足りない国が、金利を引き締める以外にどうやって通貨価値を守ることができるのでしょうか。
究極的には、1トルコリラ=12円も割れ、心理的なサポートである10円を目指す展開になるのではないでしょうか。しばらく、トルコリラを買うのはやめたほうがいいでしょう。
(志摩力男)