そもそも人間には、「標準でいたい」という意識があります。中央値、つまり査定でいうとB評価です。
世間で人事評価の大半は、「SABCD」と5段階で行われていますが、Sのように「極めて優秀」も、Dのように「極めて優秀でない」評価もわずかです。B評価で過半数を占める会社がほとんどです。さらにS評価を得たにもかかわらず、その後も同じ評価を期待されたら大変......と、控えめの評価を望む人が増えています。
ただ、あまり悪い評価で給与を下げられたくはないので、B評価で十分と考える人が増えているようです。つまりB評価であれば、「無難」なわけです。
本当に「個性的な人」はあまりいない
なぜ、そういう心理になるかというと、人は基本的に他者との「類似性」を求めようとするからではないでしょうか――。
ある心理学者が行なった「類似性と魅力度の関係」についての実験では、人は自分とものの考え方や価値観が似ている他者に対して、より魅力を感じやすいという結果が出ています。
そのようにして他者と近しい関係を築くことは、心理学において人間の基本的な欲求なのかもしれません。
一方で他者との差異を求めようとする傾向があります。というのも、人は誰しも他者とは異なるアイデンティティを持ちたい、ユニークでありたいという基本的欲求も備えているからです。
このような欲求は「独自性欲求」と言います。つまり人は、「類似性」を持つことで集団の中で他者と良好な関係を築きながら、その中で「独自性」を発揮することで自己のアイデンティティを確認しているといえます。
ですから、自分のことを個性的だと思っている人の中にも、本当に個性的な人はあまりいないものです。標準化している職場の中で、「ちょっと変わっている」くらいの存在感を出しても、社会全体で見ればその違いはわかりません。自分が思うほど、そんなに標準から外れていないと思ったほうがいいでしょう。
会社内の慣習や前例から、ちょっとだけ外れてみよう
それでも、やはり自分の個性を出したいなら、職場内比較での「独自性」を出すのが一つの手段です。たとえば、営業系の職場なら「声が大きくて元気」な性格で対外交渉力が高いのは当たり前ですが、エンジニアとか経理部門でなら独自性がある存在になれるはずです。
あるいは、逆に営業部門にいながら、財務分析力があり、リスクマネジメント力に長けている人間になれば、そこでは独自性のある存在になれるのではないでしょうか。「例がないアプローチで新規の受注をあげる」とか、「これまでとは真逆な発想で商品開発をする」......などといった、特別な仕事ぶりではなく、職場内の比較で独自性のある仕事ぶりを示せれば十分。そうすれば、周りは覚えてくれます。
通常の仕事における独自性は、社内における独自性です。社内の慣習からちょっと外れたこと、前例のないことなど、それくらいの差別化をしてみようと考えてみましょう。(高城幸司)