近代五輪で初めて1年延期となった東京五輪・パラリンピックに、「史上初」のレガシーがまた加わった。2021年3月20日、海外からの一般客の受け入れ断念が東京五輪組織委員会、東京都、日本政府、IOC(国際オリンピック委員会)、IPC(国際パラリンピック委員会)の5者協議で決まったのだ。
インバウンド(訪日外国人客)を起爆剤にして、経済再生を目論んだ菅政権の狙いは頓挫した。
コロナ禍で何とか「中止」だけは避けるため、経済効果を切り捨てた形だが、いったい何のために開くのか――。疑問と怒りの声が渦巻いている。
経済アナリスト「コロナ禍で開くのが無理だった」
経済アナリストたちは、今回の「海外客断念」の影響をどう分析しているのだろうか――。
大和総研の鈴木雄太郎エコノミストは、こう試算した。
「海外客断念で国内の消費支出が600億~700億円減る。会場の収容定員の半分に観客を減らすと、減少額は1300億円程度に膨らむ」=朝日新聞(3月21日付)「インバウンド起爆剤頓挫」
日本の観光戦略を再考する必要が出てくるくらいの打撃だ。
関西大学の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)も、こう試算している。
「海外客の受け入れを見送り、国内客を収容人数の半分に制限した場合、経済損失は約1兆6258億円に上る。観光立国を目指す日本にとって影響は大きく、訪日外国人の経済的貢献の大きさを再認識させられる結果だ」=毎日新聞(3月21日付)「中止封じ最優先 経済効果切り捨て」
一方、海外客の見送りを妥当な「落としどころ」としたのが、第一生命経済研究所の永濱利広・首席エコノミストだ。
「(過去の五輪と比較した結果)五輪開催年の実質国内総生産(GDP)の押し上げ額はプラス1.7兆円と見込む。だが、その効果も海外客を受け入れて感染が拡大すれば相殺される。緊急事態宣言が再び発令されたら1か月で約1.5兆円の損失が見込まれる。経済的な観点で言えば、開催の意味が失われてしまう」=同紙。
つまり、もともとコロナ禍の中で東京五輪を開催して経済効果を期待するのは無理な話だった。どうしても開催するならば「海外客の見送り」しかなかったというわけだ。
米、仏、中、韓、タイの5か国民の7割が開催反対
今回の「海外客断念」の決定は多くの海外メディアが速報した。ニューヨーク・タイムズ電子版(3月20日付)は「Overseas spectators are barred from the Tokyo Olympics」(東京五輪が海外の観客を禁止)という見出しで、
「新型コロナウイルスの世界的な流行という現実を前に大きな譲歩を強いられた。しかし、大会開催への日本国民の不安は根強い。今回の決定が日本国民の懸念を和らげることはないだろう」
と指摘した=写真参照。
しかし、海外の一般国民の東京五輪への関心は非常に低く、また、「開催すべきではない」という反対論も強い。
時事通信(3月20日)「米、五輪を忘れていた 東京五輪・海外反響」がやっと、3月20日に発生した東北の地震(最大震度5強)のニュースで東京五輪を「思いだした」という米国民の実情を、こう伝えている。
「新型コロナ大流行で死者・感染者とも世界最多の米国では依然、五輪を楽しみに待つという雰囲気ではないようだ。米国では日本メディアを引用する形で今回の(海外客断念)方針が事前に報じられた。ただ、会計士の黒人男性(24)は『正直、五輪を忘れていた』と苦笑い。ドアマンの白人男性(30)は『今は1カ所に集まるのは安全じゃない』と理解を示し、『中止か再延期したほうがいい』と話した。決定は米国の土曜早朝だったが、AP通信はこの決定直前に宮城県沖で起きた地震にも触れ、日本で地震が多いことを『思い出させた』と報じた」
そんななか、公益財団法人「新聞通信調査会」が3月20日、日本と関係の深い5か国の各1000人に東京五輪・パラリンピック開催の是非について行った世論調査を発表した。
米国、フランス、中国、韓国、タイの5か国で行った調査では、「東京五輪・パラを中止・延期すべきだ」と答えた人が、すべての国で7割を超えた=図表参照。
最高はタイの95.6%で、韓国が94.7%で続いた。中国は82.1%で、米国は74.4%、フランスは70.6%だった。「開催すべきだ」と答えた人は最も高いフランスでも25.8%で、米国は24.5%、中国は17.9%だった。タイは4.4%、韓国は3%にとどまった。
ちなみに日本では、最新の朝日新聞(3月22日付)の世論調査では「開催する」が27%にとどまった。「中止する」が33%、「延期する」が36%で、合わせて69%が今夏の開催に反対だった。
このまま、何の波乱もなく「東京五輪」が開催されると、どれだけ多くの人が思っているだろうか。
(福田和郎)