「ファッションの世紀」の終わり
小島さんは、ファッションビジネスは夢を売って付加価値を訴求しようというインフレ志向の「クリエイションビジネス」とお値打ち価格で提供しようというデフレ志向の「サプライビジネス」と二つの相反する理念があるという。
アパレルが過剰供給に陥った責任は、両方にあり、共通するのは「顧客を見ない見切り発車」だ、と指摘する。企画から販売までのリードタイムが長いため、顧客の嗜好や需要状況を読めないからだ。
大量生産型から需給が一致した持続可能型へと、抜本から思考を切り替えるよう提言している。DX(デジタルトランスフォーメーション)による無在庫販売の可能性も示している。
業界とメディアが結託して消費者を錯覚させる「ファッションシステム」は終焉を迎え、顧客目線のビジネスになるよう訴えている。
コロナ禍で外出しなくなった、買い物をしなくなったという人には、うなずける指摘ばかりだ。アパレル業界の行方は、関係者だけでなく、各地の再開発にも影響を与えるだろう。ターミナルビル、郊外のショッピングセンターのテナントとして入居している店も多いからだ。大げさに言えば、「ファッションの世紀」の終わりは、日本の景観にも変化をもたらすかもしれない。ファッション業界以外の人にも一読を勧めたい。
「アパレルの終焉と再生」
小島健輔著
朝日新聞出版
790円(税別)