供給量の半分が売れ残る
「第4章 こうしてアパレル業界は行き詰った」では、供給量の半分前後が売れ残る異常事態が1999年以降続いていると指摘する。売れ残り在庫は廃棄処分される訳ではない。次のシーズンに持ち越すことも少なくない。儲かっているアパレルしか廃棄処分できないという。海外に中古衣料として輸出されるものもある。
今やアパレル商品を「正価」で買うのは、よほどお金に無頓着な人か、あぶく銭が回っている人に限られるという言い回しにも驚いた。同じ商品でも価格には正価(メーカー希望小売価格)、会員優待価格、キックオフ価格、セール価格、オフプライス価格、ユーズド価格と6段階あるそうだ。「そして誰も『正価』では買わなくなった」。
どうして売り切れないほど過剰に供給するようになったのか、コスト優先で過大ロット調達などアパレル業界の悪習を挙げつつ、ユニクロの台頭と対抗すべく多くのアパレルチェーンが、大量一括調達型SPA(自社企画自社ブランドによる製造小売アパレル専門店)を志向し、調達量が急増したのが原因と見ている。いずれにせよ、半分が売れ残る事態がいいわけがない。
第6章以降は、アフター・コロナを見据えた予測と提言からなる。こんな姿だ。
「いつの日かコロナが収束しても、コロナ禍で一変したライフスタイルや消費行動は元には戻らないだろう。新型コロナウイルスのトラウマで濃厚接触や三密を避ける習慣が抜けず、かつてのように混雑する繁華街やターミナルで買い回る慣習は廃れ、ECや身近な生活圏での店舗で買い物を済ますようになり、販売員との接触を避けるセルフショッピングと無人精算が定着するだろう。
顧客はウェブルーミングとショールーミングを駆使してネットと店舗を自在に行き来し、店舗はC&CでECと一体化してお試しや受け取り、店出荷の拠点となり、大なり小なりショールーミングストア化していく。購買行動と店舗の役割が大きく変わり、出店立地も都心のターミナルから郊外の生活圏へ移っていく」