新型コロナウイルスの感染拡大は、学生らの就職活動にも多大な影響を及ぼした。本書「就活のワナ あなたの魅力が伝わらない理由」は、「アフターコロナの就活」について、ノウハウやマニュアルをまとめた一冊。
コロナ禍で変わった就活・採用のプロセスから、インターンシップの真相、エントリシート(ES)の書き方から、オンライン面接などまでを「学生の利益を第一に考えて」詳しく解説している。
「就活のワナ あなたの魅力が伝わらない理由」(石渡嶺司著)講談社
企業は通年採用拡大へ
著者の石渡嶺司さんは、編集プロダクション勤務などを経て2003年から大学ジャーナリストとして、大学や就活の取材を続けている。大学、就活のほか教育、転職・キャリア関連の執筆活動に従事しており著作は本書で30冊目。「Yahoo!ニュース個人」で定期的に記事を書いており、大学や就活関連をテーマにしたテレビ番組の出演も少なくない。
新卒の就活は、選考時期も入社時期も一括という「一括採用」がタテマエだったが、この一括採用はすでに崩壊しているというのが、著者の見方だ。日本経済団体連合会の中西宏明会長が2020年6月の朝日新聞で「『新卒一括採用』にこだわらず、企業は通年採用を拡大し、門戸を常に広げておいたほうがいい」と述べていることも、その裏付けの一つという。
実際には、2016年前後から採用機会が増加しているという。採用担当者のあいだでは、選考時期を分割しても手間や時間がかかるだけという理由から、新卒一括採用が支持されてきたが、長引いた売り手市場と学生の多様化でそれが変わった。
就活はリーマンショック後の氷河期を経て、2013年卒ごろから売り手市場に転換。コロナ禍前の20年卒まで続いた。売り手市場で企業側は採用を増やしたいが、採用基準を下げるわけにはいかない。選考に手間や時間がかかることになっても選考時期を分割する、という手法しかなかったという。そして、選考時期を分割化したことで、多様な学生を採用できるメリットに企業側が気づいていったのだ。
メリットの大きさゆえに「採用時期の分割化はコロナショック後も続く、と見られている」という。「選考時期を分割というのは、表現を変えれば『通年採用』に他ならない」というわけだ。
2022年卒の選考は全部で7期
それでは2022年卒採用ではどうなるのか――。22年卒の就活スケジュールは、21年3月1日に広報解禁を受け、説明会・セミナーとなり、4月に選考開始となる。この選考は20年9~12月の秋インターンシップでの1期、21年1~2月の冬インターンシップでの2期、3月上旬に集中する説明会の中で行われる3期に続く4期目に当たる。
政府主導による就活ルール上の選考解禁は6月1日だが、実際には選考時期を分割する企業が増加するという。21年9月開始のものまで、全部で7期あるそうだ。
もちろん1社が7回に必ず分けるというわけではなく、3回に分ける企業もあれば、4回あるいは5回の企業もあり、2回の企業もあるという。著者によると、就職情報会社各社も、選考時期をどの企業が何回に分けているかなどの調査はしていない。ただし選考開始時期や内々定出し時期については調査があり、参考になるという。
本書では、リクルートキャリア就職みらい研究所が毎年出している調査集「就職白書」を引用して2020年卒の選考開始時期、内々定出しの時期を示している。この白書の解説で「内々定・内定出し開始時期」について、「現行の採用スケジュールが開始された17年卒では『6月』が35.2%と突出しているが、20年卒では『4月』24.7%、『5月』20.3%、『6月』20.6%と、「開始時期が分散している」と報告している。
こうした変化について2021年卒の就活生のうち、とくにインターン組は理解して早いうちに就活を始め、コロナショックの影響を受けずに内定を得ることができた。インターンシップを理解している学生・教員は約2割という。本書では、インターンシップがわかっているかどうかでつく格差を解説。22年卒のインターンシップに及んだコロナ禍の影響にも触れている。
インターンシップからスタートして数期にわたる選考の現実、コロナの影響を知っておくことは、2022年卒の就活生ばかりか、それ以後に就職を控えた大学生の参考にもなるはず。本書で分析している22年卒の就活スケジュールは、オリンピックの有無以外は、23年卒、24年卒も同様のスケジュールになるとみられ、変化があったとして若干、前倒しになる程度という。
「就活のワナあなたの魅力が伝わらない理由」
石渡嶺司著
講談社
税別1000円