東日本大震災から10年を迎えた2021年3月11日、小泉純一郎氏をはじめ、細川護熙氏、村山富市氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏の5人の元首相が、脱原発と自然エネルギーの推進を訴える「3.11宣言」を発表した。
小泉氏と細川氏が顧問を務める「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が同日、東京都千代田区の憲政記念館で、オンライン会議「原発ゼロ・自然エネルギー100 ~福島原発事故から10年~」を開いた。小泉氏が基調講演を行ったほか、5人が宣言文を発表した。
「安全な原発を造っていると考えていた」
「あの事故前、私は原発推進論者だった。日本は広島・長崎の被曝を知っているから放射能には敏感だ。米国のスリーマイル、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故も参考にしながら、安全な原発を造っていると考えていた。ところがそうじゃなかった」
小泉純一郎氏は講演で、こう切り出した。
「なぜ信じてしまったのか。経済産業省は原発が安全でクリーンでコストが安いと言っていたが、この3大大義名分は全部ウソだとわかった」
と、政府のエネルギー政策を批判。「(東京電力は)安全第一と言いながら、実際は収益第一だった」として、「原発事故は人災だ」と断じた。
小泉氏は、「日本は原発ゼロでやっていけることを事実が証明した」と強調。原発事故後、国内のすべての原発54基が約2年間、運転を停止しても停電など起きなかったとして、「原発ゼロは無鉄砲でも非現実的でもない」と強調した。
さらに、小泉氏は「野党が『原発ゼロにしよう』と言い出して、自民党は『原発が必要だ』といえるかどうか。選挙民は原発をやらせようというほうに投票するか、私は疑問に思っている」、とも発言。今秋までに行われる総選挙の争点になり得るとの考えを示した。
会場には菅直人氏と鳩山由紀夫氏も駆けつけ、小泉氏の講演終了後、そろって登壇。小泉、菅、鳩山の3氏は、がっちり握手した。
菅氏は、
「この10年間で原発は建設コストが3倍になった。将棋でいえば原発は完全に投了の場面なのに、投了しないと言って原子力ムラが頑張っている」
と、経産省や大手電力会社を批判した。
そして、
「我が国には農業と太陽光発電を同時に行う営農型発電という方法がある。原発などより営農型太陽光発電の拡充に力を注ぐべきだ」
との考えを示した。
鳩山氏が、
「久しぶりに小泉節を聞いた。小泉元首相に政治の世界に戻っていただき、脱原発で政党をつくっていただければ、賛同したい」
とエールを送ると、小泉氏は苦笑。これについて具体的なコメントはなかった。
このほか、細川氏と村山氏が会場にメッセージを寄せ、小泉、鳩山、菅の3氏と合わせ、元首相5人による「3.11宣言」として紹介された。
「なし崩し的に老朽原発の延命が進んでいます」
細川護熙氏は、
「燃料デブリや汚染水解消のメドがまったく立たない中で、なし崩し的に老朽原発の延命が進んでいます」
として、
「記憶は薄れやすいものですが、我々は原発という不条理と闘わなければという思いを、いま改めて強く持たなければと思います」
とコメントした。
村山富市氏は、
「日本は戦争被爆国として、核兵器と放射能被曝の恐ろしさを最もよく知る国であるはずである。私は日本政府に今一度、福島第一原発事故の教訓を踏まえ、原発ゼロと自然エネルギー推進に向けて大きく舵を切ることを強く要請する」
などと訴えた。
5人の元首相がそろって脱原発、自然エネルギー推進の考えで一致したのは、自民党出身の首相だった小泉氏が率先して自らの過ちを認め、政策の転換を訴えたからに他ならない。
小泉氏は「過ちを改むるに憚(はばか)ることなかれ。原発ゼロでも脱炭素社会の実現は可能」とのメッセージを発表。「自然エネルギー推進は世界の趨勢である。日本は太陽光や風力などに恵まれている国であり、エネルギー政策を自然エネルギーを中心としたものに大胆に転換していけば、原発ゼロ、石炭ゼロでも存立する」と訴えた。
さらに菅義偉政権に対して、小泉氏は、
「2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするという方針を政府は掲げた。しかし、その目標が原発を温存する理由になってはならない。脱炭素社会の実現は、原発ゼロでも可能である」
と、クギを刺した。(ジャーナリスト 済田経夫)