「デジタル」の楽天と「リアル」の郵政が資本業務提携 「ベストカップル」の評価高いがそんなにオイシイ話なのか?

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   日本郵政と楽天が資本業務提携した。日本郵政が楽天の約1500億円の第三者割当増資を引き受け、出資比率は8.32%で、第4位の大株主になる。日本郵政傘下の日本郵便と楽天は2020年12月に物流分野の提携に向けて協議することで合意しており、今回は資本面にも広げ、物流や携帯電話、業務のデジタル化、さらに金融など幅広い分野で連携を強める。

   不祥事や資金不足といった、それぞれのお家の事情はあるが、郵便局を中心とした全国ネットワークという「リアル」を持つ日本郵政と、インターネット通販を中核とする「デジタル」に強い楽天がタッグを組むことに、相互補完的と評価する声が聞こえる。

  • 全国の2万4000の郵便局が楽天のケータイショップになる!?
    全国の2万4000の郵便局が楽天のケータイショップになる!?
  • 全国の2万4000の郵便局が楽天のケータイショップになる!?

資金が欲しい楽天

   2021年3月12日、日本郵政の増田寛也社長と楽天の三木谷浩史会長兼社長が共同会見で、資本業務提携を発表した。

   出資以外の提携の主な内容は、

(1)共同の物流拠点や効率的な配送システムの構築
(2)日本郵便と楽天が保有する物流データの共有
(3)楽天モバイルの申し込みを郵便局内で受け付け
(4)日本郵便の配達網を生かした楽天モバイルの販売促進
(5)楽天から日本郵政に対し、デジタル技術に詳しい幹部人材の派遣
(6)キャッシュレス決済などの金融事業やネット通販での協業の検討

――。

   提携の姿は、どちら側から見るかで、かなり違う。楽天から見るのが今回の提携の意義が明確になる。

   提携の背景には、「楽天の財務の厳しさ」がある(日経新聞13日朝刊)。楽天は社運をかけて携帯電話事業に参入しており、基地局を全国に広げるための資金負担が重い。今夏には人口カバー率は96%に高める計画だが、先行投資で2020年12月期は純損失が1141億円に達し、2期連続の赤字になった。同期末の自己資本比率は4.9%と、この2年で半減している。

   NTTドコモなど大手3社の料金引き下げへの対抗値下げで、投資の回収にも従来想定より時間がかかるのは必至だ。

   今回、郵政のほか、中国IT大手騰訊(テンセント)から約660億円(出資比率3.65%)、米小売り大手ウォルマートからも約170億円(同0.92%)の出資を受け、資金調達額は計2400億円になり、楽天が何より、資金を得る必要があったことがわかる。会見で三木谷氏は「創業以来、このような大型の出資を受け入れるのは初めてだ。重みを感じている」と、珍しくネクタイ姿で表情を引き締めたのは、楽天としての大きな転換点であることを暗示している。

楽天の年3兆円の物販配送を日本郵便が一手に!?

   郵政との提携には、資金面だけでない携帯電話事業をテコ入れする狙いがある。全国2万4000の郵便局の屋上に基地局を設置できるほか、郵便局内に特設ブースなどを置いてオンライン申し込みを受け付けることなどを想定している。

   楽天の販売店は現在200店だが、2000店を超える大手3社の10倍の販売網を一気に手にする格好だ。楽天の顧客はインターネットを使いこなす若者が中心だが、高年齢層に強い郵便局での販促で顧客層を拡大することも期待できる。

   もちろん、郵政の物流網が本業のネット通販の大きな力になるのは間違いない。「ヤフー」を展開するZホールディングス(HD)と通信アプリ大手LINEの経営統合が3月1日に完了して誕生した新生ZHDに売上高で肉薄されたところだけに、「リアル」な郵政の物流網を確保することは、ZHDなどライバルとの競争上有利になるだろう。

   一方、郵政側には、楽天の物販(年間3兆円規模)の宅配を優先的に引き受けるのが大きな狙いだ。同時に、増田社長は「デジタル技術で有為な人材を楽天から受け入れる」とも表明した。DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術による業務やビジネスの変革)で一日の長がある楽天の力を借り、郵便・物流、金融のデジタル化に取り組もうというのだ。

   そこには、かんぽ不正販売問題の後始末に追われ、前向きな取り組みができなかった状況を打開するきっかけにしたいとの思惑もうかがえる。

   このほか、両社の物流関連データの共有化、共同物流拠点の開設などによるコスト削減も進める。また、金融分野の業務提携も進める方針で、三木谷氏は「スーパーアプリも含めて検討したい」と言及した。

楽天「ケータイ郵便局」構想は幻想か?

   こうした提携は、事業面の補完性や相乗効果ということでは、なかなか良い組み合わせといえそうだ。週末の発表を受けた最初の取引となった3月15日の東京株式市場で、楽天株は値幅制限いっぱいストップ高の前週末比24%(300円)高の1545円まで上昇してそのまま引け、日本郵政株も一時3.6%高の1062.5円を付けたのは、期待の表れだ。

   ただ、提携は「絵に描いた餅」に終わりかねない不安もある。郵便局網を使った携帯電話の販売も、郵便局が楽天でなくても、NTTドコモやソフトバンク、auなどのケータイショップになるという姿は想像しがたい。いま、携帯電話の新規購入や機種変更をすると、通常でも1時間かそこらはかかる。それも、結構な知識を持った専門の販売員が対応してのことだ。郵便局員がその力を身に着けるのは容易ではないだろう。「2万4000の販売網」は限りなく幻想に近いともいえる。

   そのように考えると、結局、最大のポイントと指摘した「楽天の資金調達」ばかりが目立つ提携ということになる。ただし、この点については、民営化したとはいえ、政府が株式の過半数を保有し、公共性の極めて高い郵政が、特定の民間企業と、資本を含む関係を結ぶことには疑問も残る。

   特に、楽天の資金調達が眼目であり、しかも相互出資ではなく郵政側の一方的な出資であることには、「事実上、巨額の『資金注入』とも言える」「携帯電話事業のように4社が激しい競争をしている中で、政府が過半の出資をしている会社が、その1社に対して巨額の資金を注入するのは、果たして公正と言えるのだろうか」(細川昌彦・明星大学経営学部教授=元経経済産業省中部経済産業局長、日経ビジネス電子版「深層 世界のパワーゲーム」3月16日付)との指摘もある。

   菅義偉政権の携帯電話料金の引き下げ政策で苦境にある楽天に対する救済という見立てだが、こうした分析の当否は別にして、日本郵政のあり方、携帯事業の競争のあり方について、政府の政策スタンスも問われている。(ジャーナリスト 岸井雄作)

姉妹サイト