医師が見たフクシマ 「被ばく」という見えない敵との闘い【震災10年 いま再び電力を問う】

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高齢者にとって「避難」は命にかかわる行動

――放射線のリスクはどのくらいあるのでしょう。

中川先生「2011年4月23日に、飯舘村に全村避難指示がありました。特別養護老人ホームの『いいたてホーム』は避難回避の許可を得ることができました。そのほか、飯舘村の特定の企業は、計線量の計測や圏外からの通勤を条件に操業が認められました。
じつは、南相馬などの福島原発に近い地域では事故直後に避難指示が出され、老人ホームの入居者も含めて、圏外に避難させられました。ところが、避難した高齢者が2週間後にお骨になって戻ってくるケースが見られるようになり、避難指示の見直しの動きも出ていたのです。やはり事故や災害時の避難は、高齢者にとっては命にかかわる行動なのです。
放射線で、がんに罹るリスクが上昇しても、1個のがん細胞が1000個になるには20年かかります。がんの症状を見る前に、避難による体調変化やストレスなどの影響を目の当りにすることは明らかです。飯舘村では、そのような影響を配慮して『避難指示』としたのです」
中川恵一先生は、「住民の放射線被ばく量はほぼ『ゼロ』」と話す
中川恵一先生は、「住民の放射線被ばく量はほぼ『ゼロ』」と話す

――放射線被ばくによる影響は、どれくらいで人体に影響するのでしょう。

中川先生「改めて放射線の人体への影響を整理してみます。
もともと、人は放射線に接する機会が多くあります。自然界からも放射線が出ていて、太陽や地球の内部、野菜や魚などの食べ物から天然の同位元素からの放射線があります。これらの自然界からの被ばく(自然被ばく)は、日本では年間2.1ミリシーベルト、フランスでは年間5ミリシーベルトといわれています。それは福島原発による放射線被ばく量の規制よりも高い数値です。さらに医療では、CTスキャンは1回7ミリシーベルトにもなります。
日本人の医療被ばくは年間3.8ミリシーベルトで世界一高い数値です。総じて、自ら浴びている放射線は、自然被ばくで2ミリシーベルト、医療で4ミリシーベルトあり、合わせて6ミリシーベルトにもなります。それに加わる福島原発などからの放射線は1ミリシーベルトに抑えるのが、もともとの考えになっています。
論点は、ゼロからの放射線被ばくの影響ではなく、6ミリシーベルトに加わる1ミリシーベルトが、どれくらい健康に影響があるかということなのです。年間1ミリシーベルト以下の放射線被ばくの影響を正確に弾き出すのは、じつは専門家でも難しいのです」

――がんの発生率を高めている原因は、どこにあるのでしょうか?

中川先生「たとえば避難生活では、住居において仮設住宅と借り上げ住宅の二つがあります。飯舘村では仮設住宅は飯野地区にあります。仮設住宅は4畳半で狭いながらも、その住民同士のコミュニティができて、心身を含む健康保持につながっています。借り上げ住宅は、アパートやマンションなどを自治体が借り上げて、そこに入居するのですが、先住の人たちとのコミュニケーションに苦労したり、そもそもコミュニティに入れずに孤立して、それが原因で健康状態が悪くなるケースが見られます。
南相馬では、避難民の糖尿病が6割増加したデータがあります。糖尿病は、がん発生率を2割高くするものです。計算上、がん発生率が12%高くなったのです。飯舘村の避難後の定期健康診断も、原発事故直後からすると、血圧、高脂血症、糖尿、肥満が増えました。まだ4万人が避難をしていますが、日常的な生活を送れていません。健康を保つ上では『日常』が大切なのです。それができてこなかったことが、この10年間でいえることだと思います」
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