ことわざの「二度あることは三度ある」は、同じことが繰り返されるという文字どおりの意味の他にも、「原因を解決しないと失敗は繰り返される」という警句として用いられることもある。
現金自動預払機(ATM)が全国的に利用できなくなるシステム障害を、またもや起こしたみずほ銀行には、その警句が重く響いている。
出遅れた「デジタル通帳」がトラブルの原因
システム障害は2021年2月28日午前から翌3月1日午後にかけて起き、全国に約5400台ある同行のATMのうち最大約8割で出金などの手続きができなくなった。顧客がATMに入れたキャッシュカードや通帳が機械の中に取り込まれたまま戻らないケースも起き、その数は5200件を超えたという。インターネットバンキングの一部取引も利用できなくなった。
3月1日18時になって、みずほ銀行の藤原弘治頭取がようやく記者会見を開き、システム障害は「定期預金のデータ更新」作業を実施している際に起きたことを明らかにしたうえで、
「ご不便をかけたお客様、社会の皆様に深くお詫びをいたします」
と頭を下げた。
会見での説明では、約25万件の定期的な作業がある月末の日に、1年以上取引のない定期預金のデータ約45万件を移し替える作業を実施したため、「事前にテストをしていたが、システムに想定以上の負荷がかかった」(藤原頭取)という。
だが、これで話は終わらなかった。「定期預金のデータ更新」と説明していた作業は、取り扱いを始めたばかりのデジタル通帳「みずほe-口座」に1年以上取引のない定期預金を移行する作業だったのだ。
この事実を、みずほ銀行はなぜか3月4日になって明らかにしている。メガバンクの中でデジタル化が遅れているみずほ銀行は、1月に始めた「みずほe-口座」で巻き返そうとしていた矢先であり、システム障害の要因としてデジタル通帳が大々的に報じられるのを避けたかったのではないか。そう疑われても仕方がない。
明らかにされない「判断」の経緯
みずほ銀行を中核とする、みずほフィナンシャルグループ(FG)は、かつて大規模システム障害を2回起こしている。第一勧業、富士、日本興業の3行が経営統合して、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行に再編した2002年4月には、発足日に約250万件に及ぶ口座振替の遅れや二重引き落としが発生。2011年3月の東日本大震災直後にも、義援金が集中して約116万件もの振り込みが滞り、ATMも停止した。その2回はいずれも金融庁から業務改善命令を受けている。
旧3行のシステムをつなぎ合わせて使ってきたことが、発足当初の大規模障害を引き起こした要因にもなっており、みずほFGは4000億円以上をかけて2019年7月に新勘定系システム「MINORI」に移行していた。にもかかわらず、今回の大規模障害が起き、直後の3月3日と7日にもATMに関わるトラブルが続いた。さらに11~12日にもATMではないが、外貨建て送金の一部が滞るシステムトラブルが起きた。
最初の大規模障害は月末に作業日を設けた人間の判断が直接の要因だが、その判断に至った経緯は明らかにされていない。これについては、印紙税が年200円かかる「紙の通帳」の口座数を税務署に申告する4月に年度が切り替わる前にデジタル通帳への移行を急ぎ、印紙税を少しでも節約したかったのではないか、という見方を大手紙が報じている。
これが事実ならば、デジタル化を急ぐあまりに肝心のシステムをダウンさせたことになり、まさにみずほのガバナンスの問題だ。たとえシステムを刷新しても、それを運営する側の判断に問題があれば、失敗は繰り返されるのだ。(ジャーナリスト 済田経夫)