東日本大震災で津波の被害を受けて、炉心が溶け、水素爆発事故を起こした東京電力・福島第一原子力発電所。今も高い放射線量のなか、40年かかるとも言われている廃炉作業が続いている。
本書「廃炉」は、この未曾有の現場を支える、誇り高き人々の記録である。
「廃炉」(稲泉連著)新潮社
廃炉作業にかかわる多く人の声
野球で言えば、敗戦と分かっていてマウンドに立つ「敗戦処理投手」にたとえて、サブタイトルは「『敗北の現場』で働く誇り」となっている。事故の責任を感じて、「一生、福島においてください」と福島にとどまり続ける官僚、瓦礫の運び出しや放射線量の測定など困難なミッションに挑む技術者、彼らをバックヤードで支える人々、「加害者」になることを厭わず、東電を選んだ新入社員たち......。アクセスすることが難しい廃炉現場の姿が見えてきた。
著者の稲泉連さんは、1979年生まれのノンフィクション作家。「ぼくもいくさに往くのだけれど-竹内浩三の詩と死」で第36回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。
廃炉作業の様子は時折報道されるが、40年かかると言われる気の遠くなるような時間感覚と、高い放射線量のため容易にアクセスできない環境が相まって、取材するライターは少ない。全体像がなかなか見えない対象だからだ。
もちろん、現場で働く労働者に取材したノンフィクションはある。労働者として現場に入ったライターもいる。そして、高い放射線量と過酷な労働環境というイメージが定着した。
だが、廃炉の現場はそれだけだろうか。あえて、行政や企業の当事者の声を聞いたところに、本書の新機軸がある。「加害者」として社会から指弾されてきた彼らにしか、見えないし語ることができないこともあるからだ。
廃炉作業にかかわる多くの企業、人々が登場、7章で構成されている。すべてに触れることはできないので、印象に残ったことを紹介したい。