「今一度『災害時の地図について』お伝えさせてください。
防災バッグの中に『ご自宅付近の地図』必ず入れておいてください!
なんなら当社の地図でなくてもいいです、おねがいします」
地図情報のゼンリンの公式ツイッターが2021年2月24日に投稿した、このツイートがSNSで話題となった。
きっかけは2月13日に発生した、福島沖を震源地とした最大震度6強の地震。大規模な停電が起きたことから、今回の投稿に至ったようだが......。旅行や出張先ならともかく、歩き慣れた自宅付近の地図が、なぜ災害時に必要なのだろうか。
ゼンリンの広報担当者が、3月4日の会社ウォッチ編集部の取材に、その意図を話した。
「自分の足で歩き、必要な情報を記載することが大切」
「日常で災害発生時のことを意識して生活することは、ほぼありません。じつはそれが一番危険です。避難場所まで近道だと思っていても、そこに倒壊しそうな家があったら...どうでしょうか。日常の情報が災害時に役立つとは限りません」
広報担当者は、そう切り出した。
日常と災害時では道路状況が一変することもある。災害時に自宅付近の地図が必要な理由について、広報担当者はこう続ける。
「避難所までの最短ルートを事前にイメージしていても、家屋の倒壊などによってその道を通れなかった場合、代替ルートを考える必要があります。そんな時に地図を使用することで、落ち着いた避難が可能になります。
それならスマホの地図を使えばいい!という方もいらっしゃると思いますが、スマホは災害時の数少ない情報収集手段となるため、充電を温存する必要があります。
また、災害時にはオンライン機能が使用できなくなる可能性もあるため、紙の地図を準備しておくことは大切だと感じております」
スマホは連絡手段や情報収集、照明としても使える大切なツール。特に停電時は少しでもバッテリーを残しておきたいし、そもそも通信がつながりにくくなっている場合もある。
道路状況の変化も踏まえ、「近所だから大丈夫」と油断せず、紙の地図を用意しておくことに越したことはないといえる。
では、どのようなタイプの地図を備えておけば良いのだろうか。
担当者によれば、使用する地図は居住地周辺の詳細情報が載っているものが望ましい。その中でも、各自治体で配布されるハザードマップと、より詳しい情報を得るための居住地周辺の地図の両方を備えることをすすめている。
しかし一番大切なのは、どんな地図を使った場合でも「自分の足で歩き、防災目線で必要な情報を地図に記載する」こと。
「倒れそうな木、氾濫しそうな川、倒壊しそうな建物など、自分の家の周りの危険情報を予め地図に記載しておくことで、災害時の避難ルートが変わってきます。災害時のみならず、身の回りの安全を確認するためにも、地図をご活用いただければと思います」
と、広報担当者は話す。
自治体と「災害時支援協定」を締結
東日本大震災の発生から10年となる2021年3月11日。その約1か月前に発生した福島沖の地震で、改めて防災の大切さを認識したという人も少なくないだろう。
ゼンリンでは東日本大震災以降、自治体と締結する「災害時支援協定」発足させ、13年9月に初めて横浜市と締結した。
担当者によれば、災害時は救助活動や対応状況の共有など、さまざまな場面で地図が必要になる。そのため協定では、備蓄?地図・広域地図や、インターネットで利用できる住宅地図の提供などを行い、21年2月末時点で、全1741自治体のうち664自治体と締結している。
そのメリットは地図の提供だけにとどまらず、
「協定をきっかけに自治体と連携を深め、平時から自治体が抱える防災への課題を収集し、防災・減災に役立つ地図作りの知見も得ています」
と、広報担当者は話している。
ゼンリンでは、1952年に初めて発行した住宅地図「別府市住宅案内図」以降、現地を歩いて回る徒歩調査を実施。2017年には最後の未発行地区であった東京都島しょ部の調査を行い、全国1741市区町村がすべての住宅地図を発行した。
そのようにして作られた住宅地図は一軒一軒の建物名や居住者名がわかるようになっており、前述の「災害時支援協定」に提供されるなど、防災・減災に役立てられている。地図と共に、自身の防災を見直してみるのもいいかもしれない。