東京電力・福島第一原子力発電所の事故を受け、主要国では初となる、2022年までの「脱原発」を決定したドイツ。当時、日本でこのニュースをまるで遠い世界の出来事のように聞いていた私は、現在、そのドイツに暮らしています。
原発事故から10年。生活者として見る環境先進国の「電力のいま」を現地からお伝えしたいと思います。
エコ電力はもう当たり前?! 4分の1がクリーンな電力を選択
「脱原発」目前と聞くと、どんな生活を想像するでしょうか――。住宅の屋根の上にずらりと並ぶ太陽光パネル。見渡すかぎり風力発電の丘。そんな光景はドイツでもほんの一部で、暮らしぶりは日本といたって変わらない印象です。
ただ、暮らしの中で「エコ電力」、「再生可能エネルギー」といった言葉が日本よりも身近にあるようには感じます。
ドイツ連邦ネットワーク庁が実施した調査(2019年)によると、エコ電力の電気料金プランに加入している世帯は1130万戸、全体の24%におよぶとされています。わが家もエコ電力プランに加入しているのですが、きっかけは引越し先の住人からの紹介でした。
「環境に良いのはわかるけど、料金が高いのでは......」と調べてみると、通常のプランと大差なかったため契約を切り替えた経験があります。
1998年に電力が自由化され、現在、電力会社の数が1100社以上におよぶドイツ。エコ電力プランも数多く存在します。業界一をうたう料金比較ウェブサイトのVerivoxによると、原発事故後の2012年、このサイトを通じた電気料金の契約の4分の3がエコ電力だったそうです。
試しに、このサイトで電気料金を比較してみると、全249件のうち156件がエコ電力で、月額8000円から1万5000円前後までと幅広い料金プランが出てきました(ベルリン住まい、3人世帯の場合)。
絞り込み検索の条件をみると、エコ料金区分なるものが存在し、「絞り込みなし」、「エコ(すべてのエコ料金)」、「エコプラス(サステナブルな料金のみ)」の選択肢があります。同じエコ電力でも2種類あるとはどういうことなのでしょうか......。
エコ電力は本当にエコ?厳しい消費者の目で精査される市場
成長市場であるエコ電力の分野には数多くの企業が参入してきます。消費者にとっては選択肢が増える一方、「エコ電力」という法的な定義がまだないため、有象無象が乱立し、精査が難しくなっています。
多くの消費者が「本当にエコなの?」と疑問を抱えてしまう現状。前述のVerivoxがエコ電力を2種類に区分している理由はそこにあります。
ドイツで人気の商品テスト誌?KO‐TESTは、2021年1月号でエコ電力について調査を実施。中立的な立場で商品の安全性や品質のテストを実施する商品テスト誌は、ドイツでは複数存在し、消費者の購買行動に大きな影響を与えると言われています。今回の特集では、エコ電力事業者69社の料金プランを調査し、5段階評価で最も良い評価を得たのはたったの10社。7割は「不合格」のらく印を押されました。
そもそも、エコ電力プランに加入したからと言って、自宅に再生可能エネルギーによる電力が流れてくるわけではありません。ドイツ国内で流れる電力はさまざまな発電方法による電力が合わさっているからです。
エコ電力を選択すると、電力会社が支払われた電気料金の一部を再エネ分野へ投資し、市場拡大につながります。今回、不合格だった電力事業者は、電気料金の使い道が不透明、もしくは再エネ拡充へ貢献できていないと判断されたことが評価を下げた大きな要因でした。成長市場であるからこその脆弱さがあらわになった今回の結果。このように厳しく評価される仕組みがあれば、企業側は改善に努め、消費者側もより良いサービスや商品を求めるようになり、市場は成熟していくはずです。
電力事業者以外にも、暮らしの中で身近な企業が、環境への配慮から再エネの活用を積極的に進める動きが見られます。世界各国に拠点を置く物流会社ドイツポストDHLグループは、2050年までに物流に関連するすべてのCO2排出量をゼロにすることを目標とした環境保護プログラム「GoGreen」を実施。すでに、1万台の電気自動車、1万2000台の電動自転車を導入しており、今後、全車両を再エネによる電気自動車に置き換えることを目指しています。
また、大手化粧品会社ロレアルグループの傘下にあるドイツの自然化粧品会社LOGOCOS Naturkosmetikでは、2020年よりドイツ国内にある自社工場を100%再エネによって稼働させていると発表しています。
エコ電力プランを利用して間接的に再エネに投資しているわけではなく、近隣のバイオガス工場から電力を直接調達しているとのこと。このような例はまだ少数ですが、今後、再エネ市場拡大と共に増えることが期待できます。
いまドイツでは、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの活動に端を発する、気候変動への対策を訴える運動が若者を中心に大きく拡がっています。それによって、再び関心を集めているエコ電力分野。複数のエコ電力事業者によると、2020年は原発事故後以来となる契約数の伸びを記録したということです。
ドイツの国内メディアで、「フクシマから10年」としてエネルギーシフトや原発に関する話題が増えてきていることもあり、この流れはますます加速していくことでしょう。(神木桃子)