東日本大震災から、まもなく10年が経つ。J-CASTニュース 会社ウオッチではコロナ禍の「ドイツのいま」を連載しているが、今回は太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーの先進国であるドイツから、その電力事情をベルリンに在住する環境・エネルギー政策を調査するUmwErlinの西村健佑氏に、寄稿いただいた。
再エネ、さらなる普及に「セクターカップリング」
ドイツの再生可能エネルギーを発電容量で見ると、太陽光が54GW(ギガワット。1GW=100万キロワット)、洋上風力が7.7GW、陸上風力が54.8GW、バイオマスが8.3GW、揚水発電が1GW、流れ込み式水力が3.9GWで、合計130GW近くある。
ドイツ全体の発電容量は216.7GWなので、全体の60%が再エネである。ドイツの電力需要はピーク時で80GW程度なので、一日の需要をならすとだいたい40~50GW程度であり、計算上は再エネだけでもピーク電力をまかなえるということになる。
ただ、よく言われるとおり太陽光と風力は「お天気次第」であり、これらの設備は毎日24時間発電してくれるわけではない。2020年の発電量に占める割合は45%だった(系統を流れて実際に消費されたネット電力消費で見ると50.90%で初めて半分を超えた)。
陸上風力が19%、太陽光が9%、バイオマスが9%、水力が3%、内訳を見ると太陽光は設備容量の割に発電しないということになる。
もちろん再エネだけでは電力事情は満たせないので、それ以外の電源で埋め合わせることになる。2020年は褐炭16%、天然ガス16%、原子力11%、石炭7%だった。再エネが増えると化石燃料の発電量は減ることになる。近年は特に石炭の発電量が減っており、電力セクターのCO2排出量もその分低減している。
これまでのところ、再エネ電力の成長は想定よりも力強く、成功したと言える。しかし、電力を運ぶ系統や需要と供給をバランスさせる仕組みの大部分は再エネが成長する前に作られたものであり、再エネの成長に伴い大幅な変更が必要になっている。
そこで、ドイツではデジタル技術を用いて再エネの変動に対応し、余剰の再エネ電力をこれまで再エネ導入が進んでいない熱や交通分野に利用しようという「セクターカップリング」が検討されている。
デジタル技術で小規模分散型の再エネ設備とエネルギー消費設備を何百万個も統合し、まるで一つの大きな設備に見立てて管理するため、「バーチャル発電所(VPP)」と呼ばれる。
現在ドイツ国内で大規模なものは発電設備だけで10GW程度の容量がある。こうしたVPPが複数あって電力を調整しているが、今後は電気自動車(EV)やヒートポンプが加わることで、交通や熱も再生可能エネルギーへと切り替わってゆく。
日本でもVPPの導入は始まっており、今後は多様なVPPが生まれてゆくだろう。日本のような資源に乏しい国では、エネルギーをいかに効率的に作り出すかだけでなく、再エネの事情にあわせて需要を調整することが求められる。
わかりやすく言えば、電気がないときは使わないという手段がビジネスモデルになる必要がある。VPPはそうした調整能力でも力を発揮するだろう。
一般消費者が使う電力の再エネ比率は60%超
ドイツでは再エネは相当広く普及している。ドイツも日本と同様に、固定価格買い取り制度(FIT)によって再エネを推進してきた。FIT電源の環境価値は賦課金を払う人に均等に配分される。ドイツでは電力を大量に使う企業の一部は賦課金負担を免除されており、その分は一般消費者が肩代わりし、その分再エネ比率も高まる。
ドイツの再エネ比率は45%だが一般消費者の電力で見れば2019年で60%以上が再エネとなっている。2020年は65%を超える。つまり、わざわざ再エネ電力を選ばなくても3分の2が再エネになっている。
ドイツは太陽光と蓄電池をあわせたコストが電気代を下回るストレージパリティが起こっており、一軒家を新築する場合はPV(ソーラー)パネルと蓄電池の購入は誰もが検討するオプションである。
太陽光発電は年間4GW程度成長しているが、再エネ法の支援を受けているのは半分程度であり、2GW弱のPVは家庭が「得をするから」導入しているのである。特に南ドイツ行くと新築の多くがPVを屋根に乗せている。じつはこうした家庭の自家消費は先程の統計には含まれないため、再エネは身近に溢れているのである。
2020年はコロナ禍の景気対策のための追加支援もあり、電気自動車(EV)が20万台近く売れた。私の住むベルリンでも、自家用車としてEVに乗る人が増えたことを感じる。また電気バスも100台以上走っており、普通に見る乗り物になってきた。
ただ、公共充電インフラの整備状況は進んでいるとは言えない。2021年1月の公共充電ポストの数は1万8000か所弱と、EVの数に比べても随分少ない。私の家の近所には徒歩圏内に数か所あるが、統計で見ると例外だろう。
ただ、それとは別に近所のスーパーマーケットの半分くらいが充電ポスト設置をしており、そこで充電しているEVやプラグインハイブリッドを見る機会は増えた。
今後は約2300か所ともっと少ない急速充電スタンドの数を大幅に増やす必要がある。こうした急速充電スタンドは高速のサービスエリアで時折見かけるが、数が足りていないというのは実感としてある。
ドイツ原発「完全」廃炉への道のり
最後に2022年に脱原発をするドイツの原発事情について触れておこう。
現在、ドイツで稼働中の原発は6か所、8GWである。東京電力福島第一原子力発電所の事故以降に閉鎖された原発は11か所だ。それ以前にも多くの原発が閉鎖されているが、廃炉解体が終了しているのは4か所で、1985年までに閉鎖されたものだ。
1985年以前に停止したものも含む、それ以外の原発27か所は廃炉作業の途中である。原子炉はまず冷却し、放射線量を減らす必要があり、すぐには解体できない。多くの原発は発電機や冷却塔の解体をしているが、解体完了は数十年かかる。原発の多くは廃炉費用を積み立てているが不十分であり、税金を投入しながら何も生み出さない施設を何十年もかけて廃炉することになる。
問題は、こうした仕事に若者が集まらないことだ。今後どのように廃炉作業の人材を確保するかが最大の課題である。(西村健佑)
プロフィール
UmwErlin
クラブヴォーバンのプロジェクトメンバーの一人であり、在ベルリン調査員・環境政策研究者
ドイツ・ベルリン在住。ドイツをはじめ欧州の環境・エネルギー政策について調査、通訳・翻訳を手がけ、日本に正しい情報を伝えるべく活動している。