きょうは40代後半のMさんがいらっしゃっています。
「まわりでは独立したり、転職したりする人が増えています。『改正高年齢者雇用安定法』で70歳まで働き続けることが現実的になった今、この先どんなふうに働いていけばいいのか。まわりにモデルケースがないので、70歳まで働いている姿が想像できなくて、戸惑っています。私は新卒からずうっと営業職で働いてきました。今から何か準備はしておいたほうがいいと思うんですけど、何を鍛えるといいのかな」
テクノロジーと「共存」してみよう
「AI(人工知能)」の意味を理解していなくても、ほとんどの方が言葉は知っていると思います。「AIによって仕事が奪われる」「AIによって世の中が便利になる」など印象はそれぞれです。2000年代に入ってから出てきた技術なのかなと思っていましたが、調べてみると1900年代にはすでにあったそうですね。
AIを直接仕事で使っていなくても、身近なところではMさんも使っていますよ。たとえばスマートフォンのカメラですと、人工知能(AI)を用いて自然に写真を明るくする加工がされています。
また、Google翻訳でも人工知能が活用されています。こんなに身近です。どちらかというと、今は気づかずにAIの恩恵を受けていることが多いのではないでしょうか。テクノロジーに仕事を取られてしまう恐怖を考えるのではなく、共存する方法を考えましょう。
私の知り合いの税理士事務所では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、業務の自動化のためのロボットを導入しています。入力業務、コピーアンドペーストなどルーティンで行う毎日の業務を自動化するのです。
人間よりデジタルのほうが計算間違いもなく、スピーディ、しかも夜の時間に業務が進んでいるのです。事務所の所長は「単純なルーティンの仕事が減ったので、時間をかけたい仕事に時間を割けるようになった。考える時間ができた」とおしゃっていました。
テクノロジーが今後さらに発達していくことは間違いありません。2030年に向けて事務職や製造業の仕事はAIに代替されていくといわれています。あと、10年もありませんね。テクノロジーの分野では、日本は世界で遅れをとっていますが、コロナ禍でテレワーク化が進み、加速しています。
「ノンルーティン」のスキルを高めよう
そこで、やはり求められるのは「ノンルーティン」。AIではなく、人ができる仕事です。いわゆる専門性がある仕事です。専門性と聞いて思い浮かべるのは、技術職や研究職、士業やクリエイティブな職業だと思いますが、今から資格を取って専門性を高めようということではありません(仕事につながる資格は役立つので取得されることは賛成です)。
Mさんは新卒から営業職を続けてこられましたが、コミュニケーションはAIでは代替できないスキルです。
では、Mさんの場合、コミュニケーションスキルを高める、活用したいと考えた時に、何をしたらいいのでしょう――。
まずは、世の中の変化と自分の営業のスキルを照らし合わせてみましょう。そうすると、営業の中にもテクノロジーに任せてしまって自動化したほうがいいこと、人がもっと力を入れたほうがいいことがわかってくるかと思います。
たとえば、もともと電話でのアポイント獲得をやっていた人の仕事に、Webマーケティングを取り入れてアポイントを獲得していきます。そうすることで、契約率を上げるための部下の教育に力を注ぐこともできるようになります。
また、Mさんの営業のコミュニケーションスキルは、技術と現場をつなぐ架け橋役となり、そのためのコラボレーションスキルとして活用できるかもしれませんね。
このように、テクノロジーと共存した際に求められるスキルを探していきます。そして、足りない部分を補っていくのです。
この先、働く期間が延びていくにつれ、ますます働くシニアの割合が増していくことが明らかです。シニアが社会で生き残っていくためには、自分しかできない専門性とそれを活用していくポータブルスキルが必要といえそうです。
「ポータブルスキル」は「仕事の仕方」と「人との関わり方」のことで、社外での通用する能力を意味します。
ただ、Mさん。この先も変化は続きます。変化に対応ができるように、社内で新規プロジェクトが立ち上がったら参加してみるなど、積極的に変化の波に乗ってみましょう。(ひろ子ママ)