廃炉でも再稼働でも新設でも、費用は国民が負担する
しかし、問題はそれだけではない。たとえば、東京電力によると福島第一原発の事故処理費用は21兆5000億円と見積もられている。東日本大震災以降、原発を再稼動させるために必要な安全対策を実施するための費用は、原発1基あたり約2200億円が必要となる。
こうした費用は、回りまわって国民(利用者)負担となる。原発を新設すれば、その分のコストが上乗せされ、安全対策費も合わせた発電コストは上昇し、高止まりすることになる。繰り返すが、これを負担するのは結局のところ、国民(利用者)なのだ。
2021年2月13日に発生した福島沖地震で、福島第一原発の1号機と3号機の原子炉格納容器で水位の低下が起き、大きな問題となっている。東日本大震災から10年経っても、こんな状況が続いている。
菅首相はこうした国民の不安をよそに、自ら打ち出した「2050年までに温暖化ガス排出量をゼロ」を実現するためには、原発の再稼動はもとより、原発の新設が必要なことを知りながら、こうした状況を明らかにすることもなく、説明することもなく、グリーン成長戦略に動き出している。
たしかに「温暖化ガス排出量ゼロ」は世界的な流れでもあり、日本としても取り組むべき課題だろう。だが、その実現にあたって電力需要を確保するために、原発の活用(再稼動と新設)が必要不可欠となれば、菅首相は国民に対して説明義務を果たし、国民の声を真摯に聞くべきではないのか。(鷲尾香一)