2050年「グリーン成長戦略」のシナリオ
では、グリーン成長戦略は2050年の発電状況を、どのように予測しているのだろうか――。
2050年、電力需要は現在より30~50%増加し、約1.3~1.5兆kWh (キロワットアワー)になると予測している。
これは産業・運輸・家庭部門などさまざまな部門で電化が進み、電力需要が増加するためだ。たとえば、ガソリン自動車を削減して電気自動車を普及させれば、二酸化炭素(CO2)を発生するガソリンの使用量は減少するが、それに比例して電力が必要になる。説明されれば、CO2の削減=電力の増加というのは小学生でもわかる構図だ。
したがって、菅首相が目指す「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」という目標を実現するためには、発電量の増加とともに発電部門で化石燃料を使う火力発電などを減少させCO2を削減することを両立させる必要がある。
その方策についてグリーン成長戦略では、「すべての電力需要を100%再生可能エネルギー(再エネ)で賄うことは困難と考えることが現実的」としている。そして、具体策として打ち出しているのが、「発電量の約50~60%を再エネ、10%程度を水素・アンモニア発電、30~40%程度を原子力とCO2回収前提の火力発電」としている。
原発の発電能力が1基1GW=ギガワット(100万kW=キロワット)という前提で、設備利用率を通常時の70%と仮定した場合、2050年に原子力とCO2回収前提の火力発電で30~40%程度の電力を賄うためには、原発は64基から98基(「2050年 カーボンニュートラルの実現に向けた検討」2020年12月21日 資源エネルギー庁)が必要となる。
CO2回収前提の火力発電は世界中を見ても、先行しているカナダですら120MW=メガワット(1MW=1000kW)にとどまっている。結果的には、2050年に原子力とCO2回収前提の火力発電で30~40%程度の電力を賄うためには、そのほとんどは「原発に頼らざるを得なくなる」だろう。
現状の原発による発電量は全体の6%程度にとどまっている。これは1970年代半ばと同じ水準だ。原子炉等規制法では「原発の運転期間は原則40年」と定められている。現在国内にある原発は、運転期間を40年とすれば2050年には3基しか残らない。
ただし、原子力規制委員会の審査により運転期間の延長が最長60年間まで認められている。仮にすべての原発が60年間の運転延長が認められたとしても、2050年に稼働している原発はわずか10基程度にとどまり、増加する電力需要に対して、その発電量は10%未満となりそうだ。
こうした予測を見れば、菅首相は自らが目標として打ち出した「2050年までに温暖化ガス排出量をゼロ」を実現するためには、原発の再稼動はもとより、原発の新設が必要なことは重々わかっていたはずだ。
そうなると、グリーン成長戦略の「(原子力発電ついて)可能な限り依存度を低減しつつも」とは、正確に記すならば、「2050年には、原発を現在よりも大幅に新設せざるを得ないが、それでも原発依存度は可能な限り低減する」ということになる。