CO2ゼロ実現のため、菅政権は「安全最優先」で原発を動かす【震災10年 いま再び電力を問う】(鷲尾香一)

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   2011年3月11日の東日本大震災発生から10年が経過する。この震災で水素爆発などを起こした東京電力・福島第一原子力発電所の事故処理は、未だに遅々として進んでいない。

   そんな状況のなか、原子力発電所の政策は大きな岐路を迎えている。

  • 福島第一原子力発電所の事故から10年が経つ
    福島第一原子力発電所の事故から10年が経つ
  • 福島第一原子力発電所の事故から10年が経つ

政府はいつの間にか「原発の再稼働」を決定していた

   「安全最優先で原子力政策を進める」――。2020年10月26日、臨時国会冒頭の所信表明演説で菅義偉首相はこう述べた。

   菅首相はこの所信表明で「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」と高らかに宣言。その具体的な方針として、

「省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、『安全最優先で原子力政策を進める』ことで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します」

と打ち出したのだ。

   12月26日には菅首相のCO2ゼロ宣言を実現するため、経済産業省を中心として作成された政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が公表された。この戦略の中で、政府は原子力について、「確立した脱炭素技術である。可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引き続き最大限活用していく。安全最優先での再稼働を進めるとともに、安全性に優れた次世代炉の開発を行っていくことが必要である」と明記している。

   つまり、政府は国民の意見を聞くこともなく、いつの間にか「原発の再稼働」と「原子力発電所の新設」を決定していたのだ。

   東日本大震災による福島第一原発事故以前、国内では54基の原発が稼働していた。国内の総発電量の約25%が原発により生み出されていた。しかし、東日本大震災の発生ですべての原発が稼働を停止した。

   現在の国内原発の状況は以下のとおり。

再稼動 9基
原子力規制委員会審査に適合し稼働待ち 7基
原子力規制委員会の審査中 11基
原子力規制委員会の審査未申請 9基
廃炉決定または検討中 24基

   原発を再稼働するためには、原子力規制委員会の規制基準に適合することが条件となっている。現在の原子力規制委員会による審査に適合した9基が再稼働できる状況にあるが、実際に稼働しているのは3基に過ぎない。地元自治体の合意を受けられず、停止中の原発が6基ある。審査に適合しても、地元自治体の合意を得て再稼働するまでには5年近い期間が必要となっている。

   日本原子力文化財団の2019年度の世論調査(2019年10月)では、「原子力発電を増やしていくべきだ」2.0%、「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ」9.3%、「原子力発電をしばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」49.4%、「原子力発電は即時、廃止すべきだ」11.2%となっており、原発廃止の支持が半数以上となっている。

   まるで、こうした国民の意思をあたかも無視するように、成長戦略では、「原発を再稼働し、次世代炉を開発したうえで最大限活用する」ことが盛り込まれている。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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