マツダ株は「アップルカー生産受託」のウワサだけでストップ高
真っ先に生産受託の候補と報じられ、1月8日に「アップルとの協業を検討している」と発表した韓国の起亜自動車は、業績不振で現代自動車傘下入りしただけに、アップルカーを大量受注できれば、工場稼働率が上がり、収益の安定が望める。
日本勢でも、マツダや日産が「アップルカー、生産受託か」と、候補にその名が挙がる。2月5日にはマツダ株が前日の業績予想の上方修正と相まって、アップルカーの生産受託への思惑から買いを集め、前日終値比19%高と、ストップ高のまま引けるという大爆騰を演じた。
だが、自動車メーカーには、アップルから発注を受け、仕様書に沿って生産するのであれば、下請けになるだけだという警戒感が強い。巨大な資金を持つアップルの力の前に、経営の独立性を失いかねないのだ。
ことは、個々のメーカーの独立性云々にとどまらない。自動車産業はメーカーを頂点としたピラミッドで、何次もの下請けを抱える「垂直統合」といえるビジネスモデルだ。しかし、アップルのような方式は「水平分業」。これが主流になると、既存の自動車メーカーが抱える巨大な生産設備は、経営上の重荷になる恐れさえあるだけに、自動車業界は地力を問われることになる。
何より問題なのは、自動車が市場的には成熟産業となりつつあることだ。iPhoneが、携帯電話という新しい市場の発展とともに爆発的に伸びたのに比べ、アップルカーが新市場を拓くわけではなく、既存の自動車市場の中で、既存のメーカーとシェアを奪い合うことになる。
そこにあえて参入するということは、自動車だけのビジネスではなく、あらゆるものがインターネットでつながる「IoT」のくくりの中で、一つの重要なツールとして自動車が欠かせないという判断と推察できる。
こういった大きなうねりに、日本の自動車メーカーはどう対応していくのだろうか。CASEへの対応をめぐる合従連衡、業界再編にアップルという新たな「変数」が加わり、今後の自動車業界の進路は一段と複雑化しそうだ。(ジャーナリスト 岸井雄作)