いま支える側に成長した子どもたち
作文のほかに、現在成人した遺児が3人、インタビューに答えている。当時、小学校6年生だった大野康太さんは現在22歳。2011年から12年にかけて東京都日野市の「あしながレインボーハウス」に、母と弟とともに2か月に一度のペースで上京したという。
海外研修の案内をしてもらい、高校2年生の時にはハンガリーに1年間留学もした。大学では金融や経営のリスクマネジメントを学んでいる。また、自らもボランティアとして、遺児をサポートする活動もしている。
いま、レインボーハウスを訪れるのは、胎児やとても幼かった子どもたちだそうだ。そのため、震災の記憶や亡くなった家族の思い出をあまり持っていない。それでも、お父さん、お母さんがいないという喪失感を抱えている。そんな子どもたちにどう接するのか考えさせられたという。
あしなが育英会は、2014年には仙台、石巻、陸前高田にもレインボーハウスを建設し、現地で子どもたちをサポートする活動を続けている。大野さんのように支えられた子どもたちが支える側に成長している様子が本書の随所からうかがえる。
東日本大震災では約2万2000人が亡くなった。それぞれに子どもや家族がいた。幼いこともたちが、どう生きてきたのか。報道では伝わってこない、心の中を垣間見ることが出来る。最後に本書のタイトルになった作文の一部を引用しよう。
「わたしは、3月11日の、大しんさいで、ひいおばあさんをなくし、お母さん、お母さんのいもうと、おじいさん、おばあさんがあんぴふめいです。みんながいなくなってから、なんでお母さんたち、さんかんびやいろいろなぎょうじにこないのと言われることが多いです。それで、そのことを友だちに言ったほうがいいのか。言わないほうがいいのかをまよってしまいます。
でも、お母さんたちは見ています。なのでわたしも、くじけないでがんばろうと思います。お母さん、お母さんのいもうとさん、おじいちゃん、おばあちゃん、ひいおばあさん。お空から、ちゃんと見ててね。ぜったいだよ。やくそく。バイバイ」(川崎みく、2011年12月)
(渡辺淳悦)
「お空から、ちゃんと見ててね。――作文集・東日本大震災遺児たちの10年」
あしなが育英会編
朝日新聞出版
1100円(税別)